青山美智子(作家)
4月×日 夜中に昨今のあれこれを考えていたら眠れなくなり、和みを求めて益田ミリさんの「僕の姉ちゃん的生活 明日は明日の甘いもの」(マガジンハウス 1200円+税)に手を伸ばす。シリーズ4作目、姉と弟のおかしみにくるまれた会話が時に哲学的。妹がいる長女の私も姉であるのになぜか弟目線で読んでしまう。女としてはライバルにしたくないタイプだけど、人生の荒波の中、こんな姉ちゃんがいたら心強いなと思う。
4月×日 やっと確定申告書を提出。期限が1カ月延びて助かった。書類の整理をしていて、昨年2月の大盛堂の領収書に目が留まる。
書店員でありエッセイストである新井見枝香さんの「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」(秀和システム 1000円+税)の刊行イベントのときのものだ。本書では彼女の愉絶快絶な日々やストリップ通いについて味わい深く書かれているが、ちょうど1年後の今年2月、新井さんは踊り子としても鮮烈デビューしてしまった。あとがきを見ると「ストリップ小屋の香盤表に、私の名を連ねる日は来るのか」とあって、まるで予言。でもご本人はそう書いたことは忘れていたというから、言霊というやつか。1年の熟成を経て読み返したら、前よりさらに笑えて、さらにぎゅっと沁みた。
4月×日 ZOOM会議に初挑戦。編集者がうちに来たような感覚。好きな本の雑談になって、宮田珠己さんのエッセー集「なみのひとなみのいとなみ」(幻冬舎 600円+税)を本棚から抜き出す。心を落ち着かせるお守りみたいな本。カメラに向かって表紙を掲げ「この本には! ユーモアと知性が!」と前のめりな自分が画面に映り、なんだか熱弁するユーチューバーみたいだった。編集さんと「お気に入りの本を紹介する企画もいいですよねぇ」と話している途中で日刊ゲンダイ編集部から連絡が入り、なんと「週間読書日記」の執筆依頼。ああ、やっぱり言霊ってあるんだ。声に出して言おう。世界の平和な日常が、どうか守られますように。