内山昭一(昆虫料理研究家)

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4月×日 新型コロナウイルスが猛威を振るっている。家に籠る日が多い昨今、松原始ほか著「じつは食べられるいきもの事典」(宝島社 1200円+税)は示唆に富んでいる。総ルビ付きなので子どもから大人まで楽しめる。

 本書を読むと人類は雑食動物でよかったと思う。たとえば「豆」しか食べない単食性だったらどうか。「マスク」は不足してもどうにかなるが、「豆」がなくなったら絶滅してしまう。人類は誕生以来飢えに苦しむなかで「新食品」を見出し、多食性を獲得してきた経緯がある。

 ところが最近は狭食性に変わりつつあり、食肉はほぼ牛、豚、鶏に限られる。新型コロナウイルスは人類の食性の変化への警鐘とも言えそうだ。地球は陸も海も空も多彩な料理を楽しむレストランだ。本書はそんなレストランのメニューノートに見える。

 イノシシ肉は「牡丹」と呼ばれ、豚肉の肩ロースに似た味。馬肉は「桜」と呼ばれ、長野県南部地域では刺身で食べる。焼きスズメはバリバリ丸ごと噛み砕く。アナグマは脂がのって柔らかで絶品。ワニは外見に似ず淡白な鶏肉。コイは長野市出身の私の「おふくろの味」。深海にすむオオグソクムシはダンゴムシに似た外見とは裏腹に驚くほど旨味が濃い。

 最近話題の昆虫食にも注目したい。市販の昆虫はイナゴ、ハチノコ、カイコ、ザザムシの4種類。本書にはこのほかに、食べられる虫の仲間として、セミ、コオロギ、アリ、サソリ、タガメが登場する。セミは幼虫の燻製が病みつきになる。コオロギは外皮が柔らかでクセもなく食べやすい。アリは酸味に特徴がある。サソリはカリッと揚げて食感を楽しむ。タイワンタガメは洋ナシ風味で人気急上昇だ。

 本書をめくってみると眠っていた本能が刺激されてどれもこれも食べたくなる。私はざっとみてまだ4割ぐらいしか制覇していない。全品制覇を目指して頑張ろうと思う。みなさんも本書をガイドに忘れかけていた雑食の楽しみを思い出してみてはいかがでしょうか。

 休校で家にいるお子さんの「食育」にもおすすめの1冊です。

【連載】週間読書日記

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