「キラキラ共和国」小川糸著
現在の渋谷109の裏手にかつて「恋文横丁」と呼ばれた路地があった。戦後、占領軍の兵士宛てのラブレターの翻訳・代書する店があったことからこの名がついたものだ。本書の舞台は現在の鎌倉。主人公の雨宮鳩子は文具店を営む傍ら、江戸時代から続く代書屋の11代目として手紙の代書を請け負っている。前作「ツバキ文具店」では、祖母(先代)を亡くした鳩子が店と代筆業を引き継ぐことを決意し、地元の人たちに支えられ歩み始めた様子が描かれていた。本書はその続編。
【あらすじ】鳩子の幼い文通相手のQPちゃん(はるな)のおとうさんで、近所でカフェを営む「モリカゲさん」に祖母との思い出の丘でおんぶされてから1年足らず、2人は入籍した。平日はツバキ文具店、週末を夫の店舗兼住まいで過ごすという、変則的ではあるが親子3人の新しい生活が始まった。
そんな折、小学6年生のタカヒコが文具店に現れた。タカヒコは視力を失っており、今度の母の日にカーネーションと一緒に母に手紙を送りたいので代書を頼みたいという。鳩子はせっかくだからタカヒコ自身が書いてみたらと提案する。
次に現れたのは酷い仕打ちばかりされた夫が交通事故で死んだのだが、全然泣けないので、夫から謝罪の手紙を書いてほしいという女性。かと思えば、夫婦のそれぞれから離縁と復縁の手紙を頼まれたり……。
【読みどころ】文房具屋かつ代書屋の鳩子が腕を発揮するのは、その内容に応じた筆記具と便箋の選択だ。愛の告白をする女性の手紙はセーラー万年筆にコットン100%のアマルフィペーパー。川端康成からの架空の便りには鳩居堂のはがきとペン等々。そんなプロの技がそれぞれの思いに託されていく。
<石>
(幻冬舎 600円+税)