「残業禁止」荒木源著

公開日: 更新日:

 昨年4月、働き方改革の一環として残業時間が規制されることになった(中小企業は今年4月から)。残業=時間外労働は、原則月45時間、年360時間が上限となり、特別な事情があった場合でも年間720時間以内、月間100時間未満に抑えなければならなくなった。とはいえ、伝統的に残業が恒常化していて、サービス残業などでしのがざるを得ない業種も少なくない。本書の舞台となる建設業界もそのひとつ。

【あらすじ】成瀬和正はゼネコン「ヤマジュウ建設」の現場事務所長。横浜ベイサイドに15階建てのホテルを建設すべく現場を取り仕切っている。多岐にわたる工程を下請けの大勢の職人たちを動かして工事を進める施工管理を担うのが現場監督で、成瀬はそれを統括する現場責任者だ。

 大田、浅田、熊川、砂場の4人の現場監督はなぜか定時で帰る熊川を除き、現場作業が終わった後に深夜遅くまで大量のデスクワークに追われていた。間に合わないときには泊まり込みもザラ。そんな中、大田が過労で倒れてしまう。

 戦力を欠いては納期に間に合わないと、成瀬は納期の延期と人員補充を上層部に掛け合うが、どちらも拒否される。粘った末ようやく人員が補充されたが、これが全く使い物にならないばかりか失態続き。おまけに追い打ちをかけるように、残業禁止の通達が舞い込み、成瀬は途方に暮れてしまう……。

【読みどころ】高層ビルを建てるには膨大な量の工程があり、そのひとつでもおろそかにすれば重大な欠陥を招く。しかし納期は絶対で、質と速度という矛盾する要請の中、残業を必要悪として放置するのではなく、いかに解決していくのか。成瀬たちの奮闘ぶりは他業種にも大いに参考になるだろう。 <石>

(KADOKAWA  640円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…