「デス・ゾーン」河野啓著

公開日: 更新日:

 2018年5月に、エベレストで滑落死した登山家・栗城史多氏。本書は、北海道放送のディレクターとして栗城氏と出会った著者が、彼の死後改めて周囲の人々に取材しつつ彼の真の姿に迫ろうと試みたドキュメンタリー。昨年、第18回開高健ノンフィクション賞を受賞している。

「単独無酸素での七大陸最高峰登頂」がキャッチフレーズだった栗城氏への取材を進めるうち、著者は彼の言動の危うさに気づき、彼はネット配信を目的としたエンタメ劇場の場として山に登っているのではないかと思い始める。そして彼を最後に無謀な死へと追いやったのは、誇大広告と知りつつ彼に群がった自分を含めたメディアだったのではないかという結論に行きつく。

 著者には、かつて「ヤンキー母校に帰る」というドキュメンタリー番組で義家弘介氏を描いた過去があった。義家氏を全国区の著名人へと押し上げた末に、彼が政治家に転身して母校で語った理想の教育と真逆の行動をとった姿を忸怩(じくじ)たる思いで見たことも告白している。

 ひとりの登山家の真実の姿のみならず、メディアの今の姿に直面させられる書となっている。

(集英社 1600円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭