「浄土双六」奥山景布子著
先代の将軍・足利義量が跡継ぎとなる男子を残さず早世したため、石清水八幡宮の「神籤」(みくじ)により、突如、6代将軍を継ぐことになった義教。20年にわたり、出家の身として仏門に過ごしてきた義教はこのとき35歳であり、慣れぬ暮らしに戸惑うなか「しょせん、己は籤で決まった将軍」、周りの多くの者は密かにわらっているに違いない――との思いを強くする。
義教は争い事の絶えぬ治世にうんざりし、やがて政も訴訟の裁きも、ささいな決め事も心中で密かな「籤」を作っては、人の宿命に気まぐれな手を加えていく。そんなある日、義教は幕府の重臣・赤松家から宴に招かれる。己でこしらえた「籤」で判断し、座に着くことにしたが……。(「籤を引く男」)
室町時代中期を舞台に、足利義政、その妻・日野富子ら歴史上の5人らの人間模様を描いた連作短編集。ほか、義教の次男・三春丸(義政)の乳母として奉公し、成人後は義政より17歳年上ながら褥(しとね)の相手として求められ続け苦悩する今参局(「乳を裂く女」)、不仲ながらも銭の才覚で夫・義政を支えた妻・富子(「銭を遣う女」)など室町幕府の滅びの始まりを描く全6編を収録する。現実逃避に走る為政者を取り巻く欲望が生々しい。
(文藝春秋 1600円+税)