「盆踊りの戦後史」大石始氏

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 夏休みには生まれ故郷に帰り、親兄弟や地元の仲間たちと盆踊りに参加する。そんな日本の夏の風物詩的行事も、2020年は新型コロナウイルスの影響で消え去ってしまった。

「盆踊りには感染防止ガイドラインがはっきりと決まっていたわけではなかったものの、“今年の夏はやめておこう”という消極的な判断が下ったのも無理はありません。その一方で、中止になったからこそ“なぜ盆踊りをやるのか”という意義が見つめ直された年でもありました」

 著者は日本の祭りや伝統芸能について取材を続けており、一昨年には時代とともに変化してきた盆踊りの歴史について執筆を始め、昨年初頭に書き上げていた。ところが程なくして始まった、新型コロナウイルスの感染拡大。本書で取りあげた全国の盆踊りも軒並み中止となった。そこで、アフターコロナ時代の盆踊りについて改めて加筆し、このたびようやく出版の運びとなったという。

「風紀が乱れるとして禁止令が通達された明治維新以後や戦中・戦後にかけてなど、盆踊りは何度も中断されてきましたが、感染症の流行で全国の盆踊りが中止になるというのは前代未聞の事態でした。しかし盆踊りの変遷を知れば、コロナ以降も廃れることなど決してない、盆踊りの力強さを感じてもらえるはずです」

 本書が主に取りあげているのは、戦後生まれの新しい盆踊りだ。例えば、神奈川県川崎市の「ふるさと大師盆踊り」や、大阪市西成区の「釜ケ崎夏まつり」の盆踊り。これらに共通しているのが、集団就職で遠い故郷に帰ることができない若者、あるいは帰る故郷のない労働者たちが、“もうひとつの故郷”を再認識する場として盛り上がってきたことだ。

「盆踊りは戦後、“縁を結び直す場”としての役割を担ってきました。そこに集う人たちの出身地に関係なく、踊りの輪に参加することで新たなコミュニティーを形成し、新たな故郷の創造につながってきた。現代の盆踊りには、そんな意義があるのです」

 新しい盆踊りは伝統に縛られない、良い意味でのいい加減さも魅力だと本書。例えば、団塊ジュニア世代にとっては東京音頭よりも馴染み深い、ドラえもん音頭やアラレちゃん音頭といったアニソン音頭。さらには、1980年代から現代まで踊り継がれ、すでに伝統になりつつある荻野目洋子のヒット曲「ダンシング・ヒーロー」にのった盆踊りなど、クリエーティブで自由な盆踊りの変遷も紹介している。

 多様化が進む近年では、外国人住人が多くを占める埼玉県川口市の芝園団地や、神奈川県横浜市のいちょう団地の盆踊りに注目している、と著者。戦後、地方出身の労働者が盆踊りによって新しい故郷を形成してきたように、今度は多国籍化した盆踊りが新たなコミュニティーづくりに一役買うのではと分析している。さらに本書では、東日本大震災後の復興プロジェクトの盆踊りや、コロナ禍に行われたオンライン盆踊りなど、多様な事例もリポートしている。

「中断されても再び復活し、時代の課題に合わせてアップデートしてきたのが戦後の盆踊りの歴史です。今年は故郷に帰ることができる夏になるかは分かりませんが、盆踊りが再開できた暁には、コロナによって引き裂かれた縁を結び直す場として、大いに盛り上がることは間違いない。これまで興味のなかった人も、地域における盆踊りの役割を知り、ぜひ参加してみて欲しいですね」

(筑摩書房 1600円+税)

▽おおいし・はじめ 1975年、東京都生まれ。ライター、編集者。日本の祭りや伝統芸能の他、アジアなど世界各地の大衆音楽や文化を中心に執筆活動を行う。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」所属。著書に「ニッポン大音頭時代」「ニッポンのマツリズム」「奥東京人に会いに行く」などがある。

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