「絶対はずさないおうち飲みワイン」山本昭彦氏
「ステイホーム」で気軽に外食ができなくなり、この1年ですっかり家飲み派に転じた人も多いのではないか。
「新型コロナで飲食スタイルはすっかり変わり、家飲みを充実させたいという人が増えています。そんな人たちにぜひ勧めたいのがワイン。ワインはソーシャルな酒と言われていて、家族や仲間と飲むのにちょうどいい、生活に寄り添ってくれる飲み物なんですよ。アルコール度数も高すぎず、スピリッツ系と違ってうつっぽくならない。いわば『陽の酒』ですね。しかも、外食産業が低迷している半面、ネットのワインショップが充実しているんです。ステイホームで時間があり、品物も充実している今は、ワインを始める絶好のチャンスなんです」
本書は5つのステップで初心者レベルから、最後は自宅ワイン会を仕切れる上級者に成長するまでを伝授するワインテキスト。ほかのワイン本と異なるのは、高いワインと難しい用語は一切出てこないこと。そして、“ワインあるある”的な誤解を解きながら、ひとつずつ階段を上るように、ワインの世界へといざなっていく。
「ワインは敷居が高い、と思われてしまうのは、うんちくを語る人が多くて、特別な飲み物という印象を与えるからでしょうね。でもはっきり言えばワインはただの地酒。そもそも語るものではなく、気軽に飲んで楽しむものなんです。買ってきたワインは冷蔵庫で冷やせばよくて、白なら飲む30分前、赤なら1時間前に出せばOK。飲み切れなければ冷蔵庫に戻して翌日にどうぞ。開けて2日目は酸の角が取れ、タンニンの渋味が丸くなり、おいしいですよ。作法も気にしなくていい。グラスを回すのは時間がない品評会でやるのであって、私たちはやらなくていいんです。家飲みでもありますし、ゆっくりとワインに向き合えばいいと思いますね」
どうせ飲むならコスパ良く、おいしく飲みたいもの。本書では年間1000種以上を試飲するワイン・ジャーナリストの著者が厳選した2500円以内で買える個性際立つ高コスパ・ワイン50本を紹介しているが、「グラスだけケチらないで」と呼びかける。
「ワインは香りの飲み物ですから、コップでは香りが立ちません。私が愛用しているのはショット・ツヴィーゼル社のキャンティと呼ばれるもので2000円くらい。初期投資はこれだけです。あとはどんどん飲んでみればいい(笑い)。とはいえ、最初は高いワインに手を出す必要はありません。飲んで味覚が磨かれてからでも遅くはありませんよ」
初級編では品種や産地の特色、中級編ではテイスティング術へと進んでいくが、掴みにくいとされるワインの世界をラーメンに例えて説明するのがユニークだ。
「たとえば北海道と東京のラーメンではスープも麺の太さも違う。土地の風土が反映しているからですが、典型的なラーメンを食べると、ほかのラーメンとの違いも見えてきますよね? ワインもそれと同じで、典型となるのがボルドーです。ボルドー品種をつかったワインは世界中で造られていますから、飲み比べてるうちにぼんやりしていたワインの輪郭が見えてきます。好きな産地がみつかれば、そこを自分の地元と考え地酒にしてしまい、広げていくのもお勧めです」
ワインの香りは果物やハーブに例えることが多い。赤はベリー系、白はリンゴやレモンなどと覚えておくと、感想の言葉選びも自信をもてそうだ。
「ステイホームで分断と孤立が進んでいますが、ワインが媒介になって人とのつながりが生まれると思います。産地の話からは旅行の思い出話に花が咲くかもしれません。実はワインってタイムカプセルのような働きもあるんですよ。気軽に飲んで、ぜひ人の輪を広げていってください」
(朝日新聞出版 810円+税)
▽やまもと・あきひこ 1961年、山口県生まれ。ワイン・ジャーナリスト。読売新聞社を経て購読制ワインサイト「ワインレポート」を設立。世界を駆け回りニュースと産地をリポートする。雑誌「ワイン王国」などに寄稿するほか、セミナーも。著書に「おうち飲みワイン100本勝負」「ブルゴーニュと日本をつないだサムライ」ほか。