「日本の戦争映画」春日太一著
戦犯裁判の理不尽さを描いたのが、フランキー堺主演の映画「私は貝になりたい」(1959年、橋本忍監督)だ。妻と子と暮らしていた人のいい床屋の豊松は、召集されて戦地に赴く。上官の命令で捕虜を殺したが、終戦後、国際法違反で戦犯裁判にかけられる。「上官の命令は天皇陛下の命令だから逆らえるはずがない」と訴えてもGHQには通じない。「逆らわなかった段階で意思があったんだろう」とみなされ、絞首刑となる。豊松は「生まれ変わるなら、私は貝になりたい」という言葉を残して死ぬ。
戦後、初めて戦地を舞台にした谷口千吉監督の「暁の脱走」(1950年)や、精神性や文化風土の違いを超えて、日本人軍曹とイギリス人通訳が人間として向き合う姿を描いた大島渚の「戦場のメリークリスマス」(1983年)など、日本の戦争映画の変遷を追う。
(文藝春秋 880円+税)