「大阪ミナミの貧困女子」村上薫、川澄恵子著/宝島社新書
本書は、大阪ミナミの夜の街で働く女性たちのルポルタージュだ。夜の街は、コロナ禍で最も深刻な影響を受けた業界であるにもかかわらず、その惨状が報じられることは、ほとんどない。報じても、世間の同情を集めることが、まずないからだろう。実際、感染第2波のときには、夜の街が感染源として犯人扱いされ、そこで働く人の暮らしに関心を持つ国民は少なかった。また、メディアが取材しようと考えたとしても、夜の街は一般の飲食店と比べたら、はるかに取材がむずかしい。その意味で本書は、貴重な情報をもたらしてくれる一冊だ。
著者の中心は、2人の女性ライターで、そのうち1人は現役の夜の街の従事者だ。ベテランのノンフィクションライターと比べると、文章構成がしっかりしておらず、話が関係ないところに飛んで、推敲も十分とは言えない。取材メモを単純に文章化したような作品だ。ただ、それが本書をつまらなくしていることはない。むしろ、生々しく臨場感が伝わってくる。
例えば、深刻な部分を並べてドラマにするようなことはなく、効率のよいアルバイトとして気軽に働く人の実態もきちんと書いている。ただ、夜の街の労働は弱肉強食で、美貌と教養を兼ね備えた女性は、安定して高収入を得られるが、そうでない人はどんどん転落していく。そうしたなかで厳しい環境に置かれるのは、年齢を重ねて、子育てをしなければならないシングルマザーや介護負担を背負った人たちだという。夜の街で働くことは、女性にとって最後のセーフティーネットになっているのだが、その夜の街にはセーフティーネットがないという皮肉なことが起きている。
本書を読んで初めて知ったのだが、ミナミにはソープランドがない。花博の時に一掃されてしまったのだという。だから、夜の街全体でみたら、転落した人たちの暮らしは、ここに描かれているよりもっと悲惨なのかもしれない。本書でも、ソープランドの話は、少しだけ触れられているが、そこからだけでも、悲惨さは想像できる。
コロナ禍での困窮者の救済はどうすべきか。そのことを既存メディアとは違った視点から考えさせてくれる良い作品だ。 ★★半(選者・森永卓郎)