「チャイナ・アセアンの衝撃」邉見伸弘著/日経BP
今から10年も経たないうちに中国のGDPが世界一になるだろう。そう言うと、「中国の統計は信用できないから、意味がない」という人がたくさんいる。日本人には、中国を見下している人が多いようだ。私自身は、そんなことはないのだが、仕事で中国やアセアンを飛び回っていたのは、もう20年前の話だから、当時の途上国のイメージを引きずってきたことは否めない事実だ。
著者は、中国とアセアンが世界の成長センターになると断言する。それも、世界の工場として成長するのではなく、先端技術を駆使した新しいビジネスの主役として発展するというのだ。当然、世界の経済秩序は大きく塗り替わることになる。主役はもちろん中国だが、中国は、アセアンへの影響力を急速に強めている。アセアンは、親日国が多い。長年、莫大な経済援助をしてきたのだから、当然だ。ところが、日本経済が没落するなかで、アセアンは、資金や技術を握り、巨大市場を持つ中国を重視せざるを得なくなっている。
著者は、現実から目をそらすべきでないとして、いま中国・アセアンで起きていることを、統計データだけでなく、有力企業のビジネスモデルや国際都市間連携など、新しい経済の仕組みを含めて詳述している。この部分だけでも本書は大きな価値を持つ。中国・アセアンのビジネスは、報道されること自体が少なく、私を含めて中国語のできない日本人にとっては、直接情報を取ることが困難だからだ。
ただ、本書はそれだけで終わらない。新しい経済構造をどのような切り口で理解すべきか、そして日本企業がどのように向き合えばよいのかという戦略にまで言及している。特に目を引くのは、華僑の分析だ。アセアンの経済は、20年前も華僑が動かしていた。彼らが要となって、いま中国とアセアンを強く結びつけているのだ。本当に強いのは、中国という国ではなく、古くから商売の天才だった中国人なのだろう。だから、彼らのビジネススタイルに学ぶべきだという著者の主張に私は強く同意する。欧米中心の世界観からいまだに抜け出せていない多くのビジネスマンにとって、本書は必読の書だ。
★★半(選者・森永卓郎)