「近代とホロコースト[完全版]」 ジグムント・バウマン著 森田典正訳
ホロコーストは、ユダヤ人だけの問題でも、ユダヤ人の歴史だけの出来事でもないと著者は言う。なぜなら近代合理社会のなかで「文明が高い段階に達し、人類の文化的達成が頂点にいたったときに起こったのであるから、それは社会、文明、文化の問題である」と。ホロコーストは反ユダヤ主義の産物と思われがちだが、反ユダヤ主義はバビロンの時代にまでさかのぼり、歴史的に途絶えることはなかった。
一方でホロコーストは近代に起こった新しい事件である。近代にしか起こりえなかったとするなら、反ユダヤ主義はホロコーストの十分条件ではないと説く。
これまでナチスとユダヤ人の問題としてしか語られてこなかったホロコーストを、人類全体に関わる問題として社会学視点から考察したテキスト。
(筑摩書房 1760円)