「死者の告白」奥野修司著
高村英さんは宮城県の女性。子供の頃から憑依体質で、日常的に霊と共存していた。霊との関わりを自分でコントロールすることもできた。ところが、東日本大震災から1年余が過ぎた2012年6月から翌年の3月までの10カ月の間、津波で亡くなった人の霊に次から次へと憑依され、コントロール不能になった。まだ20代だった高村さんは体調を崩し、仕事もできなくなった。彼女に何が起きていたのか。その信じがたい体験をもとに書かれた聞き書きノンフィクション。
人にも言えず苦しんでいた高村さんは、宮城県栗原市にある曹洞宗の古刹、通大寺の金田諦應住職に救いを求め、除霊してもらうことになった。金田住職は、震災直後に宗派を超えた僧侶たちが立ち上げた移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」のメンバーで、多くの被災者の話を聴いていた。
自分が津波で死んだことに気づいていない死者たちは、高村さんの体を借りて声を上げる。津波にのまれた娘を「捜しに行かせろ」と慟哭する父親。逃げる途中で幼い弟の手を離したことを悔やみ、母親に必死に許しを乞う少女。目の前で娘が流され、娘のところに行きたいと首吊り自殺した中年の男。産めなかった悔しさと無念さに身もだえる妊婦……。体を乗っ取られた高村さんは、溺死、首吊り自殺など、彼らの死の苦しみを追体験してもがき、叫び、のたうち回る。体の外に追い出された高村さんの魂は、暗い所からそれを見ているしかない。
金田住職は死者の言葉に耳を傾け、根気よく説得し、読経する。高村さんとの共同作業で彼らを光の世界に送り届ける。高村さんも住職も、生きている人間に対するように霊に接する。
人は死ぬとどこへ行くのか? あの世はあるのか? 読者は、そうした根源的な問いにあらためて向き合うことになる。2万人という数字で語られがちな被災者の一人一人の苦しみが、高村さんの体感を伴って語られ、非科学的と切り捨てられない魂の叫びが確かに聞こえてくる。
(講談社 1760円)