「日本が飢える! 世界食料危機の真実」山下一仁氏

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「2014年に安倍首相(当時)が『40年間誰もできなかった減反廃止を行う』とフェイク発言をしました。農林水産省が否定したにもかかわらず、マスコミは安倍首相に忖度した報道をして、ひどかったんですよ。実際は減反政策が今も続き、終戦直後に約600万ヘクタールあった農地面積が440万ヘクタールに。米の年間生産量は60年代後半の半分以下の675万トン(22年度生産見通し)になってしまっています。もし今、輸入食料が途絶えたら、人口から計算して1600万トンの米が必要ですから、国民の半数は餓死してしまいます」

 ロシアのウクライナ侵攻で世界的な食料危機が叫ばれる中、昨年度の日本の食料自給率は38%。輸入が途絶えるなど不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限度必要とする食料の供給を確保することを「食料安全保障」という。本書は、その食料安全保障について東京大学公共政策大学院で講じてきた著者が、世界の食料貿易の構造などを解説しつつ、主食の米を減らし続ける日本の食料政策の危うさと裏事情を記した警告書である。

「FAO(国際連合食糧農業機関)の統計によると、米の生産量は中国もアメリカもインドも60年以降3倍以上、世界全体では3.5倍に増加していて、日本のように米の生産を減少させている国はまれです。小麦も世界全体で3.4倍に増加しているのに日本は大幅減。なぜこんなことになってしまったのか。理由は農業界がこれまで世界で食料危機が起こるたびに国産農産物が重要だとして国内農業振興に話をすり替え、既得権益を守ってきたからなんです」

■既得権益のためだけに減反政策を維持

 減反政策は過剰となった米から麦などへ転作し、食料自給率を上げるという大義名分で70年に始まった。麦などのために農家に払う補助金は毎年2300億円に達している。にもかかわらず、小麦の生産量は70年とほぼ同じ130万トン。消費量は600万トンだから、約20%でしかない。「同じ2300億円を小麦に使うなら、年間消費量を上回る700万トンの小麦を輸入できます」と著者は言う。

「減反の真の目的は、米の供給減による高い米価の維持なんですよ。なので、国民消費者は税金(補助金)を払わされた上、米価を上げられるという二重の負担を強いられ続けているんです。農業界は巧妙ですからね。戦後の農地改革には農村の共産主義化を防ぐ狙いがありました。土地を得て、保守化した農家をJA(農協)が組織化し、農民票が自民党の基盤にしたんですね。高い米価で維持した多数の小規模農家の兼業収入などが預金され、JAは日本有数のメガバンクに発展した。高米価のための減反政策維持がJAの至上命令なわけです」

 食料安全保障に話を戻すと、「どうすれば良いかはシンプルです」と著者。主食を減産する減反は食料安全保障と相いれないのだ。

「米の減反を直ちに廃止するべきです。水田の作付け可能な面積を活用し、かつ単収の高い米を作付けすれば、米生産は現在の倍以上に拡大します。国内消費を上回る米は、平時には輸出し、小麦などを輸入する。食料危機によって輸入が途絶えたときには、輸出していた米を食べて飢えをしのげばよいのです。保身しか考えられない農業界の人間から減反廃止の提案が出てくることは期待できません。国民の方から声を上げていかなければ、何も変わりませんね」

(幻冬舎 990円)

▽山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1955年、岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省農村振興局次長などを歴任し、2008年退職。「バターが買えない不都合な真実」など著書多数。

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