「アガワ家の危ない食卓」阿川佐和子著
2015年に他界した父(作家の弘之氏)の口癖は「死ぬまであと何回飯が食えるかと思うと、一回たりとも不味いものは食いたくない」。
死期が近づき、食べる力がほとんどなくなっても、父の頭の中では食べたいものが渦巻いていたという。そこで娘は、父が食べたいとリクエストしたものを病室に持ち込んだ。細く切った刺し身を2つ3つ食べた後、好物だったからと、見よう見まねで自作したトウモロコシの天ぷらを食べさせると、口から吐き出し一言、「不味い」。それが父からかけられた最期の言葉だった。
そんな父に連れられ、家族全員で出向いた外食の思い出や、父がことのほか好物としていた母の作るかつお節弁当など、食をテーマにつづられる爆笑エッセー。
(新潮社 605円)