「植物少女」朝比奈秋著
霊安室で母の棺を前に、葬儀屋が「生前から穏やかでいらっしゃったんでしょうね」と言ったとき、すべての人間が黙ってしまった。
美桜(みお)は一瞬、戸惑った後、「誰も生前の母をよく知らなくて」と答えた。26年間も母に寄り添った美桜もナースの吉田さんも、母がどういう人間だったのか知らなかった。
美桜は幼いころ、祖母に抱かれて、入院している母に面会に行った。母の膝に乗せられて乳首を吸うと、不思議なことに乳が出た。小学生の頃、食事介助の佐藤さんが母のつやつやした髪をなでながら「眠れる美女やね」と言うと、美桜は「ママな、植物人間やねんで」と言った。
植物状態の母を通して「生」を見つめる女性の物語。 (朝日新聞出版 1760円)