働くニッポン
「副業おじさん」若月澪子著
「日経平均、史上最高値を更新」などとニュースが騒ごうと、末端の働き手たちの仕事は変わらない……。
「副業おじさん」若月澪子著
「ギグワーク」とは企業などに属さず、単発や短期の非正規や副業で働くこと。著者はNHKのローカル局で契約社員として番組制作に携わったあと、結婚退職して夫の任地に転居。そこでギグワーカーとして働きながらウェブライターをしているという。そこで出会ったのが中高年男性のギグワーカーたち。
物流倉庫で働く57歳は元テレビプロデューサー。ビラやチラシのポスティングで月6万~8万円稼ぐ50代は大手メーカー社員だが、子どもの難病治療の保険適用外医療費を稼ぐために働く。
ウーバーイーツ配達員の51歳は本業も非正規雇用者で、土曜日限定で配達料は1件およそ300円。自転車などはすべて自前で月に5万円がやっとだそうだ。
四国の総合病院で医療事務を担当する40代は週に1回スタバでバリスタにつく。既に5年のキャリアになり、ギスギスした病院の事務仕事のリフレッシュになるのだという。
群馬在住の56歳は建築資材会社の社員だが、週に3、4日は退社後に時給1000円のラブホ清掃に入る。
「どうせやるなら面白い副業」と割り切った話に興味を持った著者は、自分でも都内でラブホ清掃に挑戦し、リポートまでしている。
多数のおじさんに取材した著者は、彼らに共通した願いは「わずらわしい人間関係を避けたい」が「ありがとうといわれたい」という矛盾した願望だと締めくくっている。 (朝日新聞出版 1650円)
「エッセンシャルワーカー」田中洋子著
「エッセンシャルワーカー」田中洋子著
看護師、介護士、ドライバー、ごみ収集の作業員にスーパーの従業員。どれも世の中に不可欠の仕事。それが「エッセンシャルワーク」だ。しかし、これらの仕事に限って低賃金で低待遇を誰も疑わず、代わりならいくらでもいるといった認識しか与えられない。
本書は日独から計12人の社会学者らが集まり、コロナ禍の真っ最中、すべてオンライン会議で討議しながら作られた論文集。高度な専門書だが、中身は具体的な職種に即しているのがいい。
外食チェーンの従業員は大半が非正規雇用。ブラックバイト問題や人手不足などの問題点だけでなく、ファミレスやおしゃれなコーヒーチェーンで実際に働く若者への聞き取り調査の記録などもある。
保育園、ごみ収集、建設工事にアニメ制作なども視野に入れ、ミクロとマクロの視点で状況を観察。ドイツとの具体的な比較もまじえ、低賃金が続く構造的な問題を伝えている。 (旬報社 2750円)
「はたらく物語」河野真太郎著
「はたらく物語」河野真太郎著
マンガやアニメ、ドラマなどには「お仕事もの」と呼ばれるジャンルがある。現実の業界で働く若者を主人公に、理不尽な経験を積むことで業界特有の慣習や問題点などをユーモラスに描くものだ。
本書はそんなお仕事マンガを含め、さまざまな物語に描かれた労働を論じながら、ジェンダーや階級などの問題点を文化研究者が読み解いていく。
たとえば、将棋マンガの「3月のライオン」で中卒でプロ棋士になった主人公が遅れて高校に進学する理由。人気ドラマにもなった「逃げるは恥だが役に立つ」で家事労働に与えられる意味。
ハリウッド映画の「プラダを着た悪魔」や「マイ・インターン」は「ポストフェミニズムの2つのフェーズを代表・表現している」などという一節を読むと、ジェンダー平等にたじろぐ男性読者らは思わず手に取ってみたくなるのではないだろうか。 (笠間書院 1980円)