「Z世代化する社会」舟津昌平氏
「Z世代化する社会」舟津昌平氏
「最近の若手社員は扱いにくい」。そんな悩みを解決に導くヒントが隠されているのが、Z世代を考察した本書だ。一般的に1990年代後半から2012年ごろまでに生まれた世代とされる彼らを、しょせん分かり合えない“他人”としてではなく、若者こそが社会の縮図であるとして論じている。
「Z世代は“炭鉱のカナリア”のように感度が高く、社会の影響を受けやすい存在と言えます。そのため彼らの言動は理解しにくい面もありますが、背景を探ることで社会や大人のあるべき姿を可視化することにもつながると考えています」
著者は東京大学大学院の講師として日々若者たちと接しており、理解不能な場面に出くわして精神を削られることもあると話す。しかしその分、密接な関係からの取材を通して彼らのリアルな世界をひもといている。
例えば、若者たちはSNSに慣れ親しんでいるが、いわゆる“インスタ映え”を意識した投稿をする人は過去の遺物であり、今や“イタい”とされているそうだ。
「彼らにとって過度に注目されることはむしろ悪いことで、仲間外れや陰口の対象となりかねない。しかし、承認欲求も持ち合わせています。そこで“イケてるけどイタくない”という均衡を保つため、SNSのプロフィル欄には『自己満です』という断り書きを掲げておいて、周囲からの批判を避ける。痛々しいほど他人の目を気にして空気を読んでいます」
Z世代を知る上での重要な要素として、本書は「不安」というキーワードを掲げている。彼らにとって、友達関係から就職まであらゆることが不安につながる。そして、そんな不安はビジネスの種にもなっている。
「“友達が内定を取ったときに自分だけなかったら嫌ですよね”と不安をあおり、1年生の時点から就活に誘導する仲介サービスもあります。不安を抱きやすい特性を持つ若者たちは、企業にとって格好のお客さまとなっているのです」
このような「不安ビジネス」の背景にあるのは、実は企業側の不安でもあると著者は分析する。業績アップを目指して社員を叱咤激励すればハラスメントになりかねず、投資も容易ではない。リスクを取りにくい規制の中で、若者の不安をあおることはちょうどよいビジネスモデルとなる。
「若手社員は怒られることに耐性がないと嘆く上司世代は多いでしょう。しかしこれも、若者のせいではなく大人が怒らなくなったことが原因です。学校でも企業でも、リスクを取れないから怒らない方がマシという風潮がある。Z世代はリスク回避傾向が強いといわれますが、彼らは大人をしっかりと見ています」
Z世代を通して、現代社会の課題も浮き彫りにする本書。上司世代ができることは若者の内面に踏み込んで距離を縮めることではなく、自己を開示してキャリアから生まれる余裕と自信を示すことだと著者は言う。大人が希望のある未来の姿を見せることができれば、若者の不安もおのずと解消されるはずなのだ。
Z世代は、我々と地続きの存在であることに気づかせてくれる良書である。 (東洋経済新報社 1760円)
▽舟津昌平(ふなつ・しょうへい) 1989年、奈良県生まれ。東京大学大学院経済学研究科講師。京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。著書に「制度複雑性のマネジメント」「組織変革論」などがある。