もうすぐ終戦記念日「平和を考える」文庫本特集
「占領神話の崩壊」西鋭夫、岡﨑匡史著
もうすぐ79回目の終戦記念日がやってくる。年々、戦争を知る日本人は少なくなり、世の中の反戦への思いは薄れつつあるようにも感じられる。しかし、ウクライナやガザの惨状は決して他人事ではない。この機会に改めて平和を考える一助となってくれる文庫本を紹介する。
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「占領神話の崩壊」西鋭夫、岡﨑匡史著
昭和20年8月14日、ポツダム宣言受諾が決まると、各省庁と陸海軍はすべての機密文書の焼却を実施。しかし、軍幹部が自宅に隠していた大本営の重要書類や、地方に疎開させていた文書、在外公館から連合国に引き渡された外交文書、さらに官僚が手元に残していた公文書などは残った。
アメリカのスタンフォード大学フーバー研究所には、焼却を免れたそうした史料が眠っている。
同研究所は占領下の日本で出先機関の「東京オフィス」を設立して史料収集に取りかかる。目的は、日本がなぜ戦争に突入し大敗を喫したのか、その根本原因を究明するには戦争に関する公文書や外交文書の分析が不可欠だと考えたからだ。
本書は、その眠っていた文書を読み解き、新憲法制定をめぐるGHQと日本政府の暗闘から、東京裁判における政治家や軍指導者による保身のための戦友への裏切り、解体されたはずの特高警察のその後など、歴史に残っていない戦中・戦後の真実を暴き出す。
(中央公論新社 1430円)
「ルンガ沖夜戦」半藤一利著
「ルンガ沖夜戦」半藤一利著
太平洋戦争で日本は、開戦から半年で当初の目的の半ばを達成。あとはいかにして不敗の態勢を敷くかが課題だった。大本営、とくに海軍は攻勢防御を唱え、防壁を大きく広げ、中部太平洋のフィジー諸島、ニューカレドニア諸島、ニューギニアのポートモレスビー、さらにソロモン諸島のガダルカナル島まで兵を進め、アメリカとオーストラリアの連絡路線を断ち切る作戦計画を立案。
しかし、珊瑚海海戦とミッドウェー海戦で出はなをくじかれ、ポートモレスビーへの上陸と中部太平洋への進出は断念。残るは航空基地を造ろうとすでに設営隊を送り込んでいたガダルカナル島だけだった。昭和17年8月、アメリカ軍とのガ島争奪の一大消耗戦が始まる。制空権を奪われたガ島への補給と増援を担ったのが新鋭駆逐艦で編成された第2水雷戦隊だった。
本書は、日本海軍が完勝した最後の海戦である第2水雷戦隊による伝説の戦いの詳細を描く戦記ドキュメント。
(PHP研究所 1210円)
「台所に敗戦はなかった」魚柄仁之助著
「台所に敗戦はなかった」魚柄仁之助著
戦中・戦後の食糧難にも女性たちは立ち止まってはいられず、手に入るものを、いかにおいしく食べられるかだけを考え、料理に励んだ。和食文化は、そうした過程を経て昭和前半の1950年ごろに完成されたという。
本書は、昭和10年ごろから敗戦後の昭和30年までの料理本や、婦人向け月刊誌の料理欄を参考に、和食文化が完成する過程を検証した食文化史。
日本食を代表する料理のひとつ「すき焼き」。昭和3年発行の文献で紹介される作り方では、材料は玉ねぎと牛肉だけ。それぞれを牛脂かバターで別々に炒め、皿に盛りつけ、醤油かソースで食べるとあり、現在のものとはまったくの別物だ。
以降、鰹節や塩辛を挟んだサンドイッチ、麺類の進化のもとになったマカロニとウドン料理、皮をむいたバナナを焼いて海苔を巻く「磯巻きバナナ」などのスイーツまで。
こうした料理が創意工夫を重ね、お馴染みの料理になる過程を追う。
(筑摩書房 924円)
「増補 総力戦体制と『福祉国家』」高岡裕之著
「増補総力戦体制と『福祉国家』」高岡裕之著
日中戦争から太平洋戦争にかけて形成された「日本ファシズム=全体主義的総力戦体制」を、「福祉国家」という観点からとらえ直し、戦時期の日本の社会改革構想を検証したテキスト。
「福祉国家」と「ファシズム」はそもそも相いれない概念である。しかし、近年、アジア・太平洋戦争期を日本の福祉国家(社会保障制度)形成過程の出発点とする見解が散見されるという。
社会保障の政策主体である厚生省の設立は日中戦争勃発翌年の1938年1月で、その主目的は「国民体位の向上」=「健兵健民」政策にあり、設立は陸軍の要請を受けて行われた。一方で国民健康保険や厚生年金保険も戦時下に創設されており、事実上、福祉国家に近い体制がつくり上げられた。
こうしたことから、厚生省の設立を促したのは陸軍だが、かねて福祉国家的構想を抱いていた、時の首相と内務省が陸軍を利用して厚生省を設置したともいえるという。
(岩波書店 2068円)