「ヘルシンキ生活の練習はつづく」 朴沙羅著
「ヘルシンキ生活の練習はつづく」 朴沙羅著
先日、著者の朴沙羅さんとトークイベントをする恩恵に浴した。打ち合わせのカフェで初めて顔を合わせ……いきなりハマった、朴沙羅ワールドに。そのとき(本にはユキという名で登場する)小学生の娘さんも一緒で、母娘はものすごいテンポでずーっとしゃべっているのだ。カフェのメニューを見ながら丁々発止で交わされる京都弁。わたしはふたりの会話を惚れ惚れと聞いた。きっとこの母娘は、フィンランドでも毎日こんなふうにのびやかにことばを積み重ねて「生活の練習」をしているのだろう。
社会学者が、6歳と2歳の子どもを伴って(夫は日本に置いて)ヘルシンキへ転職を果たす。幼稚園のシステムも子育ての発想も日本とはまったく違うことに戸惑い、ときにツッコミを入れつつ奮闘する現地リポートが前作「ヘルシンキ 生活の練習」。あれから2年半経って、子どもはふたりとも小学生に。フィンランド人の「地味さ、テンションの低さ」にも慣れた朴さんご一家だが、まだまだ生活の練習はつづくのが今作である。
暮らしのなかにさまざまな「考えるポイント」が仕込まれている。ページをめくるたびに読者もまた驚いたり、考えさせられたり。たとえば閣僚の大半が30代の女性で占められていたフィンランドから一時帰国し、テレビを見ていた小学生のユキさんは言う。「日本ではどうも、おじいさんが偉くなるルールがあるっぽいな」。かーっ、鋭い指摘にたじろぐ。
著者がフィンランドを礼賛しないところもいい。自国でも他国でも、手放しで褒めるのはどうもうさんくさい。どんな国も完璧じゃないからね。
(筑摩書房 1980円)