著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「ヘルシンキ生活の練習はつづく」 朴沙羅著

公開日: 更新日:

「ヘルシンキ生活の練習はつづく」 朴沙羅著

 先日、著者の朴沙羅さんとトークイベントをする恩恵に浴した。打ち合わせのカフェで初めて顔を合わせ……いきなりハマった、朴沙羅ワールドに。そのとき(本にはユキという名で登場する)小学生の娘さんも一緒で、母娘はものすごいテンポでずーっとしゃべっているのだ。カフェのメニューを見ながら丁々発止で交わされる京都弁。わたしはふたりの会話を惚れ惚れと聞いた。きっとこの母娘は、フィンランドでも毎日こんなふうにのびやかにことばを積み重ねて「生活の練習」をしているのだろう。

 社会学者が、6歳と2歳の子どもを伴って(夫は日本に置いて)ヘルシンキへ転職を果たす。幼稚園のシステムも子育ての発想も日本とはまったく違うことに戸惑い、ときにツッコミを入れつつ奮闘する現地リポートが前作「ヘルシンキ 生活の練習」。あれから2年半経って、子どもはふたりとも小学生に。フィンランド人の「地味さ、テンションの低さ」にも慣れた朴さんご一家だが、まだまだ生活の練習はつづくのが今作である。

 暮らしのなかにさまざまな「考えるポイント」が仕込まれている。ページをめくるたびに読者もまた驚いたり、考えさせられたり。たとえば閣僚の大半が30代の女性で占められていたフィンランドから一時帰国し、テレビを見ていた小学生のユキさんは言う。「日本ではどうも、おじいさんが偉くなるルールがあるっぽいな」。かーっ、鋭い指摘にたじろぐ。

 著者がフィンランドを礼賛しないところもいい。自国でも他国でも、手放しで褒めるのはどうもうさんくさい。どんな国も完璧じゃないからね。

(筑摩書房 1980円)


【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 3

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  4. 4

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 5

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  5. 10

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ