「ルポ スマホ育児が子どもを壊す」石井光太氏
「ルポ スマホ育児が子どもを壊す」石井光太氏
今、公園で自由に遊べない子どもが増えている。棒切れ一本からでも遊びを生み出すのが子どものはずだが、ぼんやりと立ちすくみ、何をしていいのか分からないというのだ。
「少子化で子どもがマイノリティーになり“大人ファースト”の世の中となった昨今、『うるさい』『あぶない』という理由で子どもの行動が制限されがちです。自由に遊んだ経験がないなら、遊び方が分からないのは当然のこと。想定外の経験の中で協調性や思考力などが磨かれますが、その機会が失われています」
長年子どもの社会課題を取材してきた著者は、教育現場から“今の子どもはあなたが知っている時代の子どもとは違う”という声をよく聞くようになったという。本書では全国200人以上の先生にインタビューを行い、子どもたちの今を浮き彫りにしている。
ある保育園での出来事に衝撃を受ける。段ボールで恐竜を制作することになり、子どもたちに絵の具で色を塗らせようとした。ところが彼らの反応は乏しく、理由を尋ねると「家で『スプラトゥーン』をやってるから、(やらなくて)いい」と答えたという。
「『スプラトゥーン』とは町中で塗料をぶちまけて戦うテレビゲームです。日常的にこのゲームに興じている子どもたちにとって、段ボールに絵の具を塗る作業など物足りません。ならばと先生は筆より楽しそうなペンキスプレーを用意しましたが、現実で手に塗料がついた子どもはショックで大泣きしたそうです」
ある保育園では、お昼寝の時間にスマホの“寝かしつけアプリ”が欠かせない。家庭でスマホを常用しアプリの映像や子守歌で寝かしつけられてきた子どもたちは、生身の先生の添い寝や子守歌に拒絶反応を示すこともあるという。
「スマホやゲームだけが悪なのではなく、大人がつくった社会環境でも子どもの成育環境が変わっています。小学生では友だちの家の中を見たことがない子どもが増えていますが、これは他人の家に行くのがプライバシーの侵害としてタブー視されつつあるため。放課後の遊びも各自宅からのオンラインゲームで、その結果、友だちの学校での顔しか知らず、人の多面性を知る機会が失われ、相手を一面からのみとらえて安易に批判するなどのリスクが高まっています」
中高生になると事態はより深刻だ。SNSにより学校の人間関係に束縛され、一方で友だち付き合いは一面的。LINEをブロックするように即絶縁も珍しくない。またオンラインで告白もデートも済ませ、初めてリアルで会った日にセックス、という付き合いも起きている。
本書の注目すべき点は、保育園から高校まで、地続きで子どもの問題を可視化している点だ。こうして見ていくと、若手社員の理解しがたい言動の源流も見えてくる。
「子どもが多様な社会で生きる力を育めないまま大人になれば、5年後、10年後の日本に起こる事態は今以上に深刻でしょう。子どもは大人がつくった環境でしか生きることができない。ならば、すべての大人が子どもの現実を他人事にせず、子どもと向き合い、環境を変える取り組みをしていくことが急務です」
(新潮社 1870円)
▽石井光太(いしい・こうた) 1977年、東京都生まれ。2021年「こどもホスピスの奇跡」で新潮ドキュメント賞を受賞。「絶対貧困」「『鬼畜』の家」「近親殺人」「本当の貧困の話をしよう」「ルポ 誰が国語力を殺すのか」など著書多数。