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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

タバネルブックス(大田区・石川台)古本と新刊の“大人色”海外絵本がずらり

公開日: 更新日:

 坂の上の住宅街に、一本の木が元気よく枝を伸ばす家があった。見上げつつ、これは?

「あんずです。引っ越してきた小学1年のとき、私の背より低かったんですが、今ではこんなに(笑)」

 と、迎えてくれた「タバネル ブックス」店主・中野木波さん(31)。両親と住む実家の1階を大改装し、2019年11月に古本と新刊の海外絵本中心の同店を始めたそう。

 ガラスのドアを開けて店内へ。ずらりと並ぶ絵本が“大人色”だとピンとくる。壁は「黄色と緑を混ぜて塗った」というペールグリーン。なんだか色の具合がいい空間だなー。

「ブックデザインに興味があって美大に入ったのに、その年からブックデザインの授業がなくなってしまって。本に関わる仕事をしたかったので、そうだ、本屋やろうと」

 三省堂でバイトし、独立した。さすがデザイン畑の出身だ。関心が高いのは、「本の形、紙質、文字の選び方、装丁」とのこと。そうした観点から、古本市で見つけて買ったのを端緒に「チェコの本」をめっぽう好きになったという。

古本市での出会いを端緒に「チェコの本」をめっぽう好きに

「たとえば」と、中野さんが手にしたのが、赤いもさもさ頭に、リンゴのような丸い体の人が表紙に描かれた一冊。「自由奔放な形、線、構成が特徴だといわれるクヴィエタ・パツォウスカーのイラストですが、不気味でしょ?」と。

「ソ連からの抑圧が凄かった1980年代の作。わざとわかりづらく、社会批判もしているのだと思います」

 一度は現地へ仕入れに行ったが、今はグーグル翻訳を駆使してチェコの古本屋や出版社に交渉し、送ってもらっているとか。大したもんだ。

 ほかにも、表紙に青いサイとオレンジ色の髪の毛の少年のイラストが目を引くイタリア絵本や、ピンク色の空の下でウサギやリスが、肉食系動物たちと意見を違う物語のドイツ絵本を紹介してくれる。

「絵本って、子どものものと思っていませんか?いえいえ、歴史の面白さも潜んでいます。これまで興味がなかった人にも見にきてほしいですね」

◆大田区東雪谷2-30-3/東急池上線石川台駅から徒歩5分/℡03.3748.4044/木・金曜14~20時、土・日・祝日13~19時に営業

ウチの推し本

「12 UKOLEBAVEK」BAOBAB刊

「イラストレーター12人が、1冊ずつ『子守歌』をテーマにして絵本を作りました。日本の文庫本より一回り大きなサイズです。それを箱に入れたものですが、手軽にチェコに触れてもらうために、ウチでは小売りもしています。バイオリンを弾く子どもや犬が出てきたり、すてきなベッドルームが舞台だったり。色使いもストーリーもデザインも“さすがチェコ”という感じなんですよ」

(12冊セット 3500円 小売り 1冊400円)

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