まるや(高円寺)女性には藤原ていの「流れる星は生きている」をすすめています
「本の長屋」と「本店・本屋の実験室」へ行った帰りの高円寺中通り商店街で、「あら、ここにも本屋さんが」と足をとめた。間口2メートルほど。奥深くまで本がぎっしり。でも「クリーニング まるや店」の看板がある。入ってみよう。
少しの文庫本と大量の単行本。淀川長治、大岡信、西尾幹二らの本とまず目が合い、「アジアの戦争」「メディアの大罪」といったタイトルも。ふむふむ。「1冊150円、2冊で270円、3冊で400円」って、やすっ。推定6000冊。きょろきょろしていると、店の奥にいらした白髪の店主から声がかかった。
「3年ほど前からやってるんだけどね。最初に入ってきたおばあさんに『これ全部、自分の本でしょ』と見破られちゃった。(あなたも)分かる?」と。
「うすうす気づいてました(笑)」と返答。
渡部昇一の教え子が「断捨離目的に始めた古本屋」
クリーニング取次店を長年営んできた矢部春雄さん(83)が閉店後、断捨離目的に始めた恒久的ガレージセールの場だった。そんじょそこらの古本屋以上、の感あり。
──ずいぶん読書家だったんですね?
「だね。1冊読むと、その著者のほかの本も読みたくなるじゃない」
──今、ここに多く並んでいる著者のベスト3は?
「1番は長谷川慶太郎。2番、書誌学の研究者だった谷沢永一。3番は渡部昇一と井沢元彦だな」
と即答なさり、「ちょっと右」と、にっこり。各人40冊はくだらないもよう。
「渡部昇一は、直接習ってた」と矢部さん。はい?
「上智の英文科に入ったのが昭和35年。渡部昇一は上智の先生だったんだ」との話に始まり、続く「ESSで英語劇にハマった」という、矢部さんのステキな青春物語を、この古びた空間で聞くとは、心躍りまくりである。
「女の人には、藤原ていの『流れる星は生きている』をすすめてるの。女手ひとつで子ども3人抱えて満州から引き揚げた実話。あれがなかったら、藤原正彦はなかったわけだし」とも熱弁。
「新田次郎の妻さんですよね。読みます読みます。ええっと、どこに?」
「売れちゃって、うちにはないよ」
「がっくり(笑)」
そんなやりとりもなかなかで、私は有吉佐和子「針女」を買った。
◆杉並区高円寺北3-2-12/℡03・3337・6315/JR中央線・総武線高円寺駅北口から徒歩5分/10~19時(ときどき18時まで)、ほぼ無休
ウチらしい本
長谷川慶太郎の著作のいろいろ(売り値130円~)
「戦前のインテリはみんな共産党員だったわけで、1927年生まれの長谷川慶太郎もそう。後に転向し、経済評論家になったのですが、“街の経済学者”だったと思う。必ず現場に行って書いてきたから。『大局を読む』『世界はこう変わる』のシリーズのほか、2019年に亡くなるまで約30年間の著作をほぼ全部、段ボール箱4つ分持っています。できたら丸ごと買ってもらいたいな。安くするので」