「いいえ私は幻の女」大石大著
「いいえ私は幻の女」大石大著
坂下麻季は川越の路地にあるカフェ「Memory」を訪ねた。目的は、家入という女に、恋人だった一岡純平の記憶を消してもらうことだ。純平は麻季に「俺が死んだら、俺のことはすぐに忘れてね」と言い残して、2月に脳腫瘍で死んだ。それ以来、麻季は純平に似た人を見かけるたびに人違いだと気づいて絶望し、手首を切ったりした。
家入は、依頼できるのは一度きりだと言い、麻季は了承した。純平に言えなかった言葉があると思っていたとき、視界の端にいた男が声をかけた。「ああ、麻季! いたいた!」。麻季は呆然と立ち尽くした。純平だった。(「第一話 あなたに似た人」)
何かをなかったことにできない人を描いた5編の物語。
(祥伝社 1870円)