「荒れ地の種」江上剛著
「荒れ地の種」江上剛著
荒波町の矢吹酒造所の8代目の光は、2011年に巨大地震が東北地方を襲ったとき、近所の少女、智花を救えなかった。酒米を作っていた農家の一家が津波にのまれ、酵母も蔵も失い、光は酒を造る意欲を失った。
12年後、娘の凪子が、米沢の人が「福の壽」がなければ荒波町は復興しないと言っていたと光に話した。あれは究極の「テロワール」だと。テロワールとはその土地の風土が育んだ酒だ。智花が酒蔵の匂いが好きだと言っていたと聞いて、光の心は揺れる。ある日、見知らぬ若者が訪れて「一緒に酒造りをさせてください」と頼みこむ。
壊滅した福島の酒を造るために立ち上がった人びとの物語。 (光文社 1980円)