追悼・上岡龍太郎さん 希代の芸人美学、現場を魅了した「俺は日本一のハガキ読みになる」宣言
5月19日に肺がんと間質性肺炎のため死去した上岡龍太郎さん(享年81)の訃報が今月2日に発表され、追悼コメントが続々と寄せられている。訃報が笑福亭鶴瓶(71)から明石家さんま(67)を通じ、島田紳助(67)へと伝わったことなども話題になった。
上岡さんは1960年、横山パンチの芸名で、横山ノック(享年75)、横山フック(85)とともに「漫画トリオ」を結成。また、「探偵!ナイトスクープ」(ABC系)の初代局長を務めるなど、関西で圧倒的な人気を誇っていた。2000年にはかねて公言していた通り、芸能生活40年を節目に58歳で芸能界を引退。多くの番組制作で上岡さんと関わった漫才作家の本多正識氏はこう語る。
「本番前、楽屋入りした上岡さんにディレクターが『打ち合わせを……』と言ったら、『大丈夫です、僕日本語読めますから』と一言言い、相手がぼう然としていると『なんか変更あります? なら大丈夫です』と言って楽屋に入っていった姿は衝撃でした。事前に渡された台本は頭の中に入っているから打ち合わせ不要というのが上岡さんなのですが、初めて一緒に仕事をするディレクターさんはビックリ。慣れているスタッフは肩を震わせて笑っていました。
台本はいつも完璧で、締めのトークを10分でまとめてと言えば9分59秒でキッチリ終える。ラジオ番組でリスナーのハガキを読みながら、途中で裏返し、その間もハガキを読む声は途切れない。聞くと『消印見てんねん。どこから送られてきたのかと思って。ハガキは1回見たら3行写んねん、頭に写ってるの読んでんねん。消印見て4行目に戻る、何の不思議もないよ。誰でもできるよ』とおっしゃる。驚いていると『漫才では横山ノックに勝てへん、司会では浜村淳に勝てへん。だから俺は日本一のハガキ読みになる、と思って。才能じゃない、練習しただけ』というからまた驚きました」
仕事には真摯に向き合い、いったん違うと思ったら譲らない姿勢もまた徹底していた。
■謝るべきなのは“やらせた人間”やろ
「深夜のバラエティー番組で板東英二さんの生前葬企画に苦情が殺到し、翌週、プロデューサーが司会の上岡さんに番組で謝罪するよう言われた。すると『会議で決定したのに、出演者がなぜお詫びしなきゃいけないんだ。やれと言われたことをやっただけでこんな不都合なことはない。謝るべきなのは“やらせた人間”やろ!』と言って、翌週、プロデューサーがテレビに出てきて謝ったことがありました。『探偵!ナイトスクープ』の番組途中でこんな番組とは付き合ってられないと怒って帰ってしまわれた逸話も同様で、心霊現象検証と言いつつ、単に“幽霊出ませんでした”で終わる制作の手抜きに憤ったのです。『責任は全て制作者にあります』と翌週も謝ることなく番組に出演された。制作側にも毅然とした態度で取り組む、プロの仕事を見せてくださる方でした」
58歳で引退してから葬祭以外は公の場に姿を見せることなく、一般人としての立場を守った。
「桂南光さんが駅で上岡さんにお会いしたときに公開録音の落語会に行きたかったけど整理券が当たらなかったと言われ『そんなん言うてくれたら用意しますのに』と言うと、『イチ素人が見たいために1人の方が行けなくなる、迷惑かけてはいかん』と言っていたそうです。辞めてからは当たったものだけ見に行かれるのも、さすが上岡さんらしい。全てにおいてプロでした」