現役芸人が見た『ホットスポット』のすごさ。お笑いのテクをドラマに落とし込む「バカリズム脚本」の妙

公開日: 更新日:
コクハク

快進撃を続けるドラマ『ホットスポット』

 バカリズムが脚本を担当したドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系、日曜22時30分~)が話題だ。毎回の放送終了後にはSNSでトレンドワード入りし、Netflixの視聴ランキングでは連日1位を獲得したりと快進撃を続けている。

 そこで今回は、かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もある現役の芸人・帽子田が、「バカリズム脚本のすごさ」を芸人目線から解説する。

【関連記事】冬ドラマを調査!炎上騒動『べらぼう』への評価は? 『ホットスポット』や『御上先生』への期待も聞いた

バカリズム以降、コントの主流が変化した

『ホットスポット』は2025年1月から放送されているバカリズム脚本のドラマだ。

 市川実日子が演じる主人公・遠藤清美は山梨のホテルで働くシングルマザー。ひょんなことから同僚が宇宙人(東京03・角田晃広)だと知り、秘密を共有した友人たちと騒動に巻き込まれながらも、宇宙人の力を借りて人々の悩みを解決していくハートフルコメディだ。

 もともとバカリズムさんの脚本には定評があり、『架空OL日記』『ブラッシュアップライフ』などで名だたる賞を受賞している。どの作品も切り口やストーリーが面白く、今回の『ホットスポット』も個人的にとても楽しみだった。

 バカリズム脚本のすごいところと言えば、バカリズムさんっぽい「新視点が面白い精巧なコント」をドラマに落とし込んでいる点だ。

 コントにも流派があって、

【1】ぶっとんだ設定や強いキャラクターが中心となるもの(最近で言うとジェラードンっぽいもの)
【2】小道具が面白く、ボケの要となるもの(例:チョコレートプラネット
【3】派手なキャラクターや小道具は使わないものの、新しい視点で日常や従来のものを面白くするもの(例:かが屋)

 …のようなタイプがある。一昔前はピン芸人のコントは【1】が主流だったが、バカリズムは【3】で頭角を現した。

 ピン芸人こそ強いキャラクターが必要だと思われていたが、高い演技力や高い脚本力でスタイリッシュに笑いを取るバカリズムさんのスタイルに、若手ピン芸人界は大きく変わったように思える。一時期はバカリズム憧れの若手芸人が地下であふれ、今では結構主流になっていると思う。

 このバカリズムの一人コントの魅力である「みたことない設定」「絶妙な言葉選び」「細かいところまで行き届いた描写力」「愛すべきキャラクター」。これを『ホットスポット』の中でも存分に活かしている。

不思議な設定をリアルに落とし込む「お笑い」のテクニック

「言葉選び」は特徴的だと思っていて、福田雄一作品みたいな派手なギャグや顔芸などはないが、キャラクター同士の会話の言葉選びやテンポがよくてクスッとしてしまう仕掛けが散りばめられている。

「見たことない設定」で言えば、そもそも宇宙人が角田さんみたいな普通すぎるおじさんというのも、あまり見ない設定だ。



 すごいパワーを持っているのに周りの人にちょっと雑に扱われる…ような描写は珍しく、ドラマの世界では不思議な能力を持っているストーリーの軸となる人物は美男美女に決まっている。それをあえてずらして、特殊な経歴や強い思想を持たない「普通すぎる中年」に置くことで、「見たことない設定」に仕上げている。

 実際に角田さんみたいな普通のおじさんすぎる宇宙人がいたらこういう扱いになっちゃうかもな…と思わされるところも面白く感じる要素だろう。これは「ファンタジーな設定をすごくリアルに落とし込む」というお笑いのテクニックが使われている。

 人を笑わせるテクニックと言えば、派手なギャグやリアクション、顔芸が思い浮かぶ人も多いかもしれない。だが、バカリズム脚本では、「言われてみれば『あるある!』を突くと、見ている人は思わず笑ってしまう」という芸人ならではのテクニックや感覚が伝わってくる。

「ちょうどリアル」な絶妙すぎるキャスティング

 また、派手ではないがぴったりなキャスティングにも惚れぼれしてしまう。

 地球人すぎる宇宙人役として角田さんが本当に適切なのだ。例えばポップな演技に定評がある俳優で言うと、ムロツヨシさんや佐藤二朗さんがいるが、彼らだと逆にコメディに寄りすぎるんじゃないかと思う。



 角田さんの強みである「ちょうどリアル」な演技の良さをバカリズムさんが知っていて推薦したのかもしれない。

 現にホットスポット関連のインタビューを見ると、バカリズムさんが角田さんを推薦したようだ(「頭脳を使いすぎるとハゲる、という表現を取り入れたいから、おでこが広い人が良かった」という理由もあるそうだが)。

バカリズムのネタ動画もぜひ

『ホットスポット』は、美男美女の大恋愛があるわけでもなく、息をつかせないようなアクションがあるわけでもなく、死ぬか生きるかの構想や陰謀と戦うような展開もない。しかしながら、バカリズムさんのエッセンスがたっぷりはいった、すごく面白くてよいドラマだ。最終回まで楽しみが止まらない。

 ちなみに、『ホットスポット』が好きな人はバカリズムさんのネタもきっと好きだろう。YouTubeに代表的なネタがいくつか上がっているので、見てみてほしい。個人的なおすすめは「Remember Glory」だ。

(帽子田/芸人、ライター)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出