思いもよらない些細な出来事が患者の沈んだ気持ちを変える
「しかし数日後、倒れたコスモスの先端が再び太陽に向かって垂直に伸び、花を咲かせたのです。そんなコスモスを見ていたら、『もしかしたら自分も治るかもしれない』という思いが胸をよぎりました」
また、化学療法で髪の毛がごっそり抜けた時は、雨上がりに山にかかった2つの虹を見て、「悩んでいてもしょうがないのかな」と思ったといいます。
治療を続けている間、家族から「元気出して」とか「頑張って!」という言葉をかけられると、「あなたみたいな元気な人に私の苦しみが分かるものですか」と言い返して泣いたこともあったそうです。「しっかりしないといけない」「家族に申し訳ない」と思いながら、かえってますます孤独になり、つらくなったといいます。
「それでも、自分で予想すらしていない些細なことがきっかけになり、『治るかもしれない』と思ったりしたのです。私は変ですよね? こんな話は、他の患者さんには役に立たないでしょうね」
Bさんは笑顔に涙を浮かべながら、こう続けました。
「がんが再発して先生から治る可能性は少ないと言われ、つらいことがいっぱいありましたけど、いまこうして治って元気でいられます。本当に良かった」
人は深く沈み、たくさん悩んでも、まったく関係がない些細なことがきっかけで、気分が変わることもある。もしかしたら、それで人は生きていけるのかもしれない。Bさんのお話を聞きながら、そう思いました。