<3>手料理を褒める 「おいしい」と言わなければ伝わらない
男子厨房に入らずで育ってきた親世代は、作ってくれた料理についてもうまい、まずいを口にしない不文律のようなものがあった。
「ただ、我が家のキムチは一般的な赤くて辛い唐辛子入りのキムチではなく、白菜漬けの水キムチでした。父は朝鮮半島からの引き揚げ組で、水キムチはまさに祖母譲りのおふくろの味だったはず。一方、母は朝鮮には行っていませんので、おそらく父が母に頼んで水キムチを作ってもらっていたはずなのです」
小宮さんは一度、その料理の感想に絡んで佳江さんを悲しませてしまったことがあった。
「私は、サケは昔ながらの塩の利いた塩ザケが好きで、今風の甘塩ザケとか、サケのホワイトソースとかいった料理は、あまり箸が進まない方なのです。妻は塩分を気にしてそうしてくれていたのだろうし、その気持ちもわからないでもないが、一度、『あんまり好きじゃないな』といった感じで、味の好みを言ってしまったのです。決して『おいしくない』と言ったわけではないのですが、妻は少し不満そうにすねた顔をしていました。その時、『ああ、おいしくなくても、おいしくないと言ってはいけないんだな』と学習しました」
一人暮らしになって、たまに友人を招き手料理を振る舞うことがある。レシピなどは佳江さんが教えてくれた。「おいしい」と褒められると、やはりうれしくなるという。
(つづく)