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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

若手医師の手術指導はまず初歩的な手技の習得度を把握する

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 前回、千葉市立青葉病院で起こった医療事故について取り上げました。2019年11月に左腕の肘関節手術を行った際、執刀した当時6年目の担当医が尺骨神経をメスで剥離する過程で、誤って神経を切断してしまい、患者に後遺症が残ってしまったというものです。その手術の際、立ち会っていたベテラン指導医が担当医のミスを見逃してしまったこともわかっています。

 どのような過程で見逃しがあったのかはわかりませんが、同じように若手医師の指導をしている立場から考えると、やはり指導医も医療安全に関する認識に甘かった点があるのではないかと思われます。医療の質と患者安全を審査する国際的な病院機能評価機構であるJCIが基準として定める「SQE」(職員の資格と教育)に対応するような指導が行われていなかったのかもしれません。

 そこで、われわれが実際にどのような手術指導を行っているのかについてお話しします。

 まず、若手医師に手術を任せる前の段階で、初歩的な手技がどの程度のレベルで習得できているのかを把握しておく必要があります。電気メスをしっかり扱えるのか、糸を迅速かつ正確に結べるのか、ハサミ、鉗子、ピンセットなどの手術道具をスムーズに使えるか……そうした基本的な手技をすべてチェックするのです。さらに最も大切なことは手術における局所解剖について少なくとも表裏から認識しているかどうかの知識を点検しておかなければなりません。模型やVRなどの手技練習用シミュレーターでの確認はもちろん、実際の手術の中でもしっかりチェックします。私が執刀する手術にスタッフとして参加させ、心臓手術で必要になる手技をシチュエーションごとに実践させるのです。たとえば、心臓手術では血管縫合が欠かせませんが、まずは皮膚の縫合をやってもらいます。その際、血管縫合で使うような小さな針と細い糸で縫合させ、問題なくできていれば血管でもいけるだろうと判断できます。

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