てんかん講師のリンカーン中村さん「初めて生まれてきてよかったんだと思った」

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リンカーン中村さん(てんかん講師/33歳)=若年性ミオクロニーてんかん

「てんかんってあれでしょ。泡吹いて倒れちゃうやつでしょう?」とよく言われるんですけれど、てんかんにも種類があって、症状は人によってさまざまです。僕の場合は一瞬ピクッとなって、その後、けいれんする発作に入って1~2分間意識がなくなるのですが、意識がなくならない人もいます。

 大きく、疾患が原因の症候性てんかんと、僕のように原因不明の特発性てんかんがあり、そのそれぞれに部分発作と全般発作という発作の形の違いがあるのです。普段、脳の神経細胞は調和を保ちながら規則正しい電気的な活動を行っていますが、てんかん発作は脳神経細胞が自発的に過激な電気活動をすることで起こる現象です。この現象が繰り返し起こると「てんかんを持っている」ということになります。

 発作の頻度やきっかけは人それぞれで、光の刺激だったり、ストレス、疲労の人もいれば、原因不明の人もいます。てんかん発作が起きなければ、普通の人と同じように生活を過ごせる人も多くいます。ただ、世の中の「てんかん」への理解が進んでいないので、偏見があったり、就職で不利になる現実があるのが悲しいところです。

 僕が最初に発作を起こしたのは、高校1年生の夏休みでした。陸上部の大会に出るために自転車で坂道を上っている最中、一瞬ピクッとして、その後、路肩に止まっていた車に倒れ込んだようです。気づいたら救急車の中にいました。MRI検査をした結果「貧血ではないか?」という診断でした。

 その半年後あたりから朝、自宅で2度発作を起こしましたが、病院では異常なしの診断が続きました。

 高校2年の10月、修学旅行で4回目の発作が起こり、フェリー泊の朝、2段ベッドの上段で発作が起きて落下。肩から落ちて全治3カ月のケガをしました。そのときクラスメートが僕のけいれんを見ていたことから「てんかん」と診断され、抗てんかん薬を飲み始めました。

 その後、20、21歳になって近所にてんかんの専門病院ができ、脳波検査を受けたことで詳細がわかり「若年性ミオクロニーてんかん」と正式な病名がつきました。1人暮らしで発作を起こして帰郷したり、「てんかんがある」と言うと企業に採用されない経験をする中、「生きてる価値がないんじゃないか」と絶望したのも21歳ごろでした。

「てんかんを持っているからこそできること」を考え始めた

 転機は、たまに連絡を取り合う仲のいい友人からの電話でした。自分の心境を話すと、「てんかん持ってるのメッチャいいじゃん。うらやましいよ」というのです。最初は「はぁ?」と返してしまったんですけど、「てんかん持っているミュージシャンいるか? てんかん持ってる俳優いるか? てんかんと何かを掛け合わせたら唯一無二の存在になれるんじゃないか?」と言ったのです。当時、その友人は美大生で、個性の化け物みたいな人が多い中で自分の個性のなさを悩んでいたのです。

 その友人との電話から、てんかんを持っているからこそできることを少しずつ考え始めるようになりました。僕が人気俳優やミュージシャンになれれば、てんかんという病気の認知度が一気に広がるんでしょうけど、まずはシンプルに言葉で伝える講演を始めようと、中学時代の先生に相談しました。すると「うちの生徒の前で講演してみるか?」となって初講演をしました。

 緊張でうまくできたとは言えませんでしたが、後日、生徒からの手紙に「元気をもらった」とか「いじめを受けていたけど前向きに考えようと思った」という感想があり、号泣しました。人の役に立てたことがうれしくて、てんかんとわかってから初めて「生まれてきてよかったんだ」と思いました。それを機に依頼があれば講演に行き、ブログ、ツイッター、ユーチューブと発信の場を増やしています。

 高校時代から飲んでいる抗てんかん薬を今もずっと飲み続けています。注意されたのは、十分な睡眠と薬を飲み忘れないこと。今までのところ最低6時間の睡眠時間を取っていれば、発作は出ていません。

 とはいえ、いつ発作が起こるかわからない恐怖は消えていません。修学旅行のとき、首から落ちていたらと思うと、いつ人生が終わってもおかしくないことを実感します。後悔のない人生を送りたいですし、いつ終わってもいいように、今思った気持ち(特に感謝)は、今言葉にすることを意識しています。

 僕の願いは「てんかん」をたくさんの人に正しく理解してほしいということ。周りの人の言葉や行動で、病気は治らなくても僕らは生きやすくなります。発作の最中は特に何もせず見守っていてくれるのが一番ありがたいです。

(聞き手=松永詠美子)

▽リンカーン中村(りんかーん・なかむら) 1989年、静岡県生まれ。16歳でてんかんを発症。21歳を過ぎてから講演活動を始め、現在はコワーキングスペースの運営会社に勤務しながら、ブログ、ツイッター、ユーチューブなどで「てんかん」についての発信をしている。“てんかんのゆるキャラ”を世に出すべく企画中。

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