実用化が近づくアルツハイマー病新薬「レカネマブ」さらなる最新ポイント
アルツハイマー病の新薬、レカネマブが厚労省の専門家部会で承認された。治療現場で使われるようになるのも間もなくだ。日本認知症学会理事長で東大大学院医学系研究科神経病理学分野の岩坪威教授(写真)にアルツハイマー病治療薬について話を聞いた。
レカネマブは、前回の本欄で触れた通り、アルツハイマー病発症の“上流”に働きかける薬だ。
アルツハイマー病は、「アミロイドβ蓄積・凝集↓タウタンパク質蓄積・凝集↓神経細胞死滅↓アルツハイマー病発症」という過程を20~30年かけてたどる。レカネマブはアミロイドβを除去し、進行を抑制する。
レカネマブの最終的な臨床試験では、早期アルツハイマー病を対象にした。早期アルツハイマー病とは、アルツハイマー病の前段階MCI(軽度認知障害)と、軽症の認知症症状をもつアルツハイマー病だ。1年半の投与で脳内のアミロイドβが約60%減少、認知機能低下が27%抑制された。
ここで着目して欲しいのは、認知機能低下が27%しか抑制されていない点だ。アルツハイマー病の原因物質が60%減少しているのだから、もっと認知機能低下が抑制されてもいいのでは──?
「今回の臨床試験は早期アルツハイマー病を対象としています。早期とはいえ、アルツハイマー病の症状が出ているということは、神経細胞がすでにかなり死滅している。アミロイドβを減少させても失った機能は補えません。また、残っている神経細胞も、一部はアミロイドβによる死滅に向かうスイッチが入っていると考えられる。だから認知機能の低下を十分に止められないのです」
アミロイドβを除去する薬はレカネマブ以外にも開発されており、臨床試験が行われている。初期の臨床試験(薬は「バピネウズマブ」「ソラネズマブ」)では、軽症から中等症の患者が対象。2014年発表の結果は「認知機能の改善は見られない」だったが、これは投与のタイミングが遅かったことが一因となっている可能性がある。
また、21年にアメリカでは条件付き承認、日本では承認見送りとなったアデュカヌマブは、レカネマブと同じ早期アルツハイマー病が対象。つまり、初期の研究対象より投与のタイミングが早くなった。2件の大規模臨床試験のうち一方では、22%の認知機能低下の改善効果が見られている。