糖尿病は生涯を通して認知症のリスクを上げる…1.54倍に増加
血管病変を起こさないための対策を
糖尿病は生涯を通して認知症の危険因子となると、前述しました。
こんな研究結果があります。アルツハイマー型認知症は、脳の中にアミロイドβがたまってアミロイド斑(老人斑)が蓄積し、神経変性が起こって発症に至るわけですが、2型糖尿病でアルツハイマー型認知症を併発している方を調べると、アミロイド斑による神経変性よりも、血管の病変の増加が目立っていたという所見が認められました。
神経変性を招くアミロイドβの蓄積は、40~50歳あたりから始まりますから、高齢になってからなんらかの対策を講じるのは難しいでしょう。
しかし、血管病変については、対策を講じることが十分に可能です。それが結果的に、脳卒中や心血管疾患の予防になるのです。
その対策とは、食事や運動。当院が行っている「健脳カフェ(認知症を発症する前の方を対象にしたカフェ)」では、対面でやる場合もオンラインでやる場合も食事指導と運動を積極的に取り入れていますが、これは血管病変の予防に役立つからなのです。
看護師のHさんは、なりたてほやほやの時、先輩看護師から投げかけられた忘れられない言葉があるといいます。
「糖尿病の患者さんは、このまま悪化してしまう方向へ行ってしまうのも、踏みとどまって現状維持を保つのも、本人のモチベーション次第。そのモチベーションをどう引き出すかが大事」
Hさんが出会った糖尿病患者さん。数年前から糖尿病の投薬治療が始まっていましたが、お酒もたばこもスイーツも大好きで、運動は大嫌い。加えて離婚していて1人暮らしということで、「俺がどうなってもだれも悲しまないから」と生活習慣を改善しようという気持ちが全く見えない方だったそうです。主治医、Hさんたち看護師、管理栄養士たちが何か言っても、耳を傾けない。
そんなとき、別れた元奥さんが引き取った娘さんが結婚。お孫さんが生まれたという連絡が男性にありました。
「このままだと、お孫さんの結婚式に元気な姿で出られないかもしれないですよ」
Hさんは、糖尿病が3大合併症や認知症、その他のいくつもの病気のリスク因子となることを伝えました。ほんの数分のやりとりでしたが、その男性は思うところがあったのでしょう。「自分のできることから始める」と、毎朝、30分のウオーキングを始めたそうです。
「これを機に、いい方向に向かってくれればいいのですが」とHさんは話していました。