(3)肺がんの重粒子線・陽子線治療は肺機能低下の高齢者に勧めたい
X線は体の表面近くで放射線量が最大となり、体内に入ると少しづつ吸収され減っていく。ところが、重粒子線や陽子線は体の中に入って停止する直前にエネルギーを放出する。そのため標的とするがん細胞にピンポイントで強い照射が可能となる。つまり、がん細胞の位置や腫瘍の大きさを正確に測定し、そこにピークを持っていければ、がん細胞を一気に破壊することが可能となる。
「重粒子線と陽子線の違いは、治療に用いる原子核の違いです。陽子線治療では水素、重粒子線では炭素の原子核を使います。炭素の原子核の質量は水素の12倍ですので、重粒子線の方がより強力ということになります。一方で、陽子線はよりピンポイントでの照射が可能となるため、正常細胞への影響が少なく照射できるメリットがあります」
しかし、ステージⅠ~ⅡA期の早期肺がんに、これほど強力の治療が必要なのか?
「肺機能が低下している早期肺がんに粒子線治療の優位性が報告されています。間質性肺炎合併例では放射線肺臓炎の発症リスクが高いのですが、粒子線治療によってリスクが大きく減るという報告があります。実際の臨床現場においてもピンポイントX線治療(SBRT)が困難であることを理由に粒子線治療施設に紹介されることが増えつつあります。『手術は嫌』という人を含めて、手術ができず肺機能が落ちている高齢な早期肺がん患者にお勧めです」
とはいえ、粒子線治療ができる施設は全国で30ほど。希望者がすべて受けられる治療ではない。比較的身近なSBRTの方が腫瘍を追尾して、結果として照射範囲が狭くなることもありえる。興味がある人はまず主治医・放射線腫瘍医に相談することだ。