「GAMIN」グループ社長・木下威征さんの巻<1>
藤九郎屋(東京・新宿)
ご夫婦でやってらっしゃる和食屋さんです。初めてお邪魔したのは、3年前くらいでしょうか。当時、近くに住んでいて無性に日本そばが食べたくなって、ある店の大将に相談して、紹介していただいてからのご縁です。
何がいいって、ご主人高坂修弘さんの熱心さがひとつ。食材や味への追求がすごくて、いつも顔を出すたびに新しい驚きに恵まれるんです。
たとえば、ハモ。夏の定番食材。オーソドックスに調理するなら、骨切りしてサッと湯引きしたら、叩いた梅でいただくでしょう。それが高坂さんの手にかかると、鮮やかな緑色のスープに、軽く炙ったハモがひたっています。上に添えられているのは、イタリアンサマートリュフ。
涼しげで、器を替えれば、フレンチといわれても不思議はない一皿。ハモを一切れ口に運ぶと、それはもう和食の味です。旬のウスイエンドウを丁寧に裏ごししたスープには、ハモの骨から抽出したウマ味がたっぷりと引き出されています。トリュフとの相性もいい。
その日の1皿目は、イワシのつみれ煮に冬瓜、バイガイを合わせたもので、続くクエとアオリイカの刺し身にはダシのジュレがカラフルなゴマとともに添えられ、煎り酒と本ワサビでいただきます。1皿目はともかく、刺し身はさりげなく洋のテイストが組み込まれていました。
で、3皿目はハマグリのエキスを丁寧に引き出したスープにう巻きが。こちらは和食のみの変化球。そんな流れで、あのハモです。
高坂さんは和食はもちろん、うなぎ屋、寿司屋でも修業経験があり、お隣の方はうな重を召し上がっていました。
コースの中身は毎回変える
メニューにはアラカルトもありますが、基本はコース。厨房をひとりで切り盛りするので致し方ないでしょうが、それでも常連さんを飽きさせない気配りもスゴイ。
「コースの中身は常に変えます。その日、同じコースを注文された中でも、ウチに来られた頻度や好みに応じて、調整しますから」というのが高坂さんのポリシーです。だから通い詰めるほど、楽しめます。この店は。
川に着水するようなイメージで盛られた稚鮎は器にダイブして提供されました。その器の脇には気持ちよさそうに泳ぐイメージのもう一匹が。そのソースが何とホワイトソースにうるか(稚鮎の内臓)を和えたものです。木に見立てたものはタデで、口直しにいい。
和洋折衷の変幻自在
ミルフィーユ状に仕上げられたのは、和牛のミスジとキュウリを叩いたものでした。見事なフレンチと思いきや、ミスジは昆布締めに。それをベリーソースでいただくと、見事にマッチします。
トマトのすり流しにはジュンサイが浮かび、目に鮮やかです。口に運ぶと、ほのかな酸味が。湯むきしたミニトマトが奥にあって、事前に甘酢に漬けられているほか、アクセントにタバスコも。
洋食は白と赤のワインビネガーやバルサミコ酢などビネガーをよく使いますが、和食はそれほどでもありません。高坂さんは、ビネガーの使い方がとても巧みです。
見た目は洋食で、味に変化を与えつつも、和食に仕上げます。和洋折衷の変幻自在、職人肌の板前です。
で、締めのそば。この日は、北空知の二八で、カツオ節の効いたダシとともに香り豊か。大満足のコースは、8500円と1万1000円、1万3000円の3つ。見えを張らずに8500円も十分オトクですから、ぜひ!
(取材協力・キイストン)
■藤九郎屋
東京都新宿区神楽坂6―8
℡03・6228・1784
▽GAMINグループエビス本店のギャマンは13年目に突入。気軽に食事ができる「トラットリア」や「深夜食堂はなれ」など東京の飲食店4店舗、パンやスイーツを扱う店舗に加え、沖縄・宮古島に5組限定のプライベートヴィラ「グランブルーギャマン」もオープン。
▼きのした・たけまさ 1972年生まれ。辻調理師専門学校を首席で卒業し、渡仏。3ツ星レストランで腕を磨いて帰国すると、「AUX BACCHANALES」「モレスク」などを経て、2008年に「AU GAMIN DE TOKIO」を開店。T.K-BLOCKS社長。