「釣りバカ日誌」の漫画家・北見けんいち氏は大の野球好き 大谷翔平、水島新司、ドカベン…大いに語った
「野球漫画を変えたのが水島さんだよ」
──生でメジャーの試合をご覧になったことはありますか。
吉井(理人)君が在籍していたころにNYメッツの本拠地シェイスタジアムで2回観戦したことがあって、ホームランの音にビックリした。向こうは鳴り物がないでしょう。バットがボールを叩く音が空気を切り裂くというか、すごかった。でも、チームに入り込んで徹底的に取材するという点では、水島さんにはかなわないよ。
──「ドカベン」の作者で今は亡き水島新司先生ですか。
そうそうそう。水島さんはとにかく野球への熱量がすごくて、当時の南海のキャンプには毎年通ってあらゆる選手に話を聞いていたんだ。「ドカベン」は、水島さんじゃなくては絶対に描けない作品でね、緻密な取材を続けたからこそ、投手の配球の妙や打者との駆け引き、ベンチや選手の葛藤を作品にできた。あの当時としてはスゴイことで、野球漫画を変えたのが水島さんだよ。
──「ドカベン」が始まったのは1972年。それまでは消える魔球(巨人の星)や殺人投法(アストロ球団)などありえない設定がよくありました。なるほど、その流れを振り返ると、水島先生の手法は当然の方向転換でファンの心をつかんだわけですね。
スーパースターの大谷君をどう描くか、これからの野球漫画はどうなるか。そのテーマをもらっていろいろと考えてみたけど、いきつくところは記録より人。大谷君を描くにしても、未来の大谷級スターを描くにしても、ライバル関係などの人間関係を軸に描くことは変わらないんだろうね。舞台はメジャーでも日本のプロでも甲子園でも。その味つけとして、僕は見えてこないトレーニングの部分を加えたいけど、そんな設定だとすると、水島さんならどんな作品に仕上げるか。きっと面白くなるに違いないから、読んでみたいよねぇ。あの人は、根っからの“野球バカ”だから。
──「釣りバカ」と“野球バカ”のおふたりがタッグを組んだら、とんでもない作品になりそうですね。
「釣りバカ」は原作があって、原作のやまさき十三さんと編集者が相談してシナリオを作る。それをベースに僕が描く。この仕事を今年で46年続けてきて、やっと分かるようになってきてね。最近は、主人公のハマちゃんのセリフが自然と口から出てくるようになったから、水島さんの半分くらいのところには追いついたかな。
──連載46年目でまだ半分ですか?
うん。だから、水島さんのような野球愛にあふれた若手に、それこそリアル大谷の熱量を上回るような思いで、水島さんが時代を一変させたような新しい野球漫画を描いてほしい。そうすれば、野球漫画ももう一度盛り上がると思う。
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どこまでも野球愛にあふれる北見さん、メジャーの開幕が楽しみで仕方ないという。
(聞き手=清水美行/日刊ゲンダイ)
▽北見けんいち(きたみ・けんいち) 1940年、満州・新京(現・中国吉林省長春市)生まれ。多摩美大付属芸術学園卒。64年、赤塚不二夫のアシスタントに。79年に「ビッグコミックオリジナル」で連載が始まった「釣りバカ日誌」(原作・やまさき十三)は映画化やドラマ化、アニメ化もされて大ヒット。日本漫画家協会賞、文部科学大臣賞を受賞。連載は継続中で、コミックは番外編を含めて132巻。