地球の歩き方 新井邦弘社長(4)手描きの地図1枚を頼りにイラン入り
イラン・イラク戦争の終結で国境が開放
そんな中で、新井は、「イランの国境が開いたよ」という話を聞いた。8年間にわたるイラン・イラク戦争が3カ月前に終結して、国境が開放されたというのだ。
「絶対、行ったほうがいいよ」と言われて、そろそろ日本に帰ろうと思っていた気持ちが変わった。
イランのガイドブックもなく、バックパッカーがA4の紙1枚に鉛筆で描いてくれた地図だけが頼りだった。
イランでは英語もあまり通じず、数字さえペルシャ文字表記で、オレンジひとつ買うにも苦労した。
「それでも、何日か経つと数字だけは何となく分かるようになりました」
刺激的な旅が続き、滞在日数がどんどん延びていく。帰国する頃には1年近く経っていた。
翌年、就職活動中の6月に天安門事件が起きた。卒論を書いていた11月、ベルリンの壁が崩壊した。新井はテレビの画面にクギ付けになった。
「天安門事件のリーダーたちは、僕と同世代の学生でしたから」
中国に行った時には、現地の学生と一緒に食事をしたこともあった。
「彼らは、『中国の未来は明るい』と、言っていたんですけど……」
ベルリンの壁を実際に見てから、まだそれほど経っていなかった。
「僕にとって、これらの事件は単なるテレビの向こうの話には思えなかったのです」
遺跡発掘や朝日新聞でのアルバイト、2度の中国放浪、ヨーロッパ放浪と充実した時を過ごすうちに、大学生活は6年に及んだ。 =つづく
(ジャーナリスト・林美保子)