野村克也氏が嘆く日本野球の今「外野手出身に名監督なし」
ヤクルト監督としてリーグ優勝4回、日本一3回の実績を誇る希代の名将がこのほど「野村克也 野球論集成」(徳間書店)を上梓した野球評論家の野村克也氏。自ら「私にとって最初で最後の実践向け野球書」と言う400ページ超の大作だ。プロ野球の世界に身を置いて60年余の経験、知識のすべてをつまびらかにする中で「最近の野球には深みがない」と嘆く。改めて話を聞こうと訪ねるや、「ボヤキのノムさんが、ますますボヤキのノムさんになっている。もうあんまりオレをボヤかせるなと言いたいんだよ」と厳しい表情で語り始めた。
■12球団の監督全員に聞きたいことがある
――現在のプロ野球に大いなる不満、危機感を持っているようですが。
基本的なプロ意識がない。野球の本質、勝負の本質が分かっていないんだ。そういうものがぜんぜん伝わってこない。今は野球評論家として原稿を書く立場だから困るんだよ。試合を見ていて、この一球、この場面というのがもう全くないから。大変だよ、原稿をつくるのが。野球、勝負事には、ヤマ場というのが絶対にあるはずなんだよ。ああ、この場面に監督が勝負を懸けているなあ、というのがね。それがなくて、ただ淡々とやってるだけでしょ。
――監督の資質や能力に起因している?
今の12球団の監督全員に聞いてみたいことがある。野球とは? と。なんて答えるんだろう。答えられないんじゃないか。野球とは? 勝負とは? こういう「とは論」はプロにとって非常に大事だと思うんだ。つまり問題意識ですよ。問題意識を持つというのはどの時代、どの組織でも大事だと思う。そういうものが伝わってこないから原稿に往生するんだ。
――今、野村さんのお眼鏡にかなう監督はいませんか。
厳しいようだけど、残念ながら……。あぁ、いい野球するなぁ、という監督に出会わないな。仕事柄、巨人の試合を見ることが多いから、他のチームを見ずに無責任なことは言えないけど。
■歴史が証明「外野手出身監督に名監督なし」
――就任2年目を迎えた巨人の高橋由伸監督はどうですか?
80年のプロ野球の歴史で外野手出身の名監督はひとりもいないんだよ。外野手出身監督で日本一になった例はひとつもなかった。2001年になってようやく(ヤクルトの)若松(勉氏)が日本シリーズを制覇して、11年に(ソフトバンクの)秋山(幸二氏)が続いた。この2人だけだから。手前味噌だけど、若松は私からヤクルト監督を引き継いでの日本一だから、私の遺産で勝ったと言っていいと思う。仕方がないんだよ。監督というのは、自分自身の現役時代の経験がベースになるわけだ。これはもう避けられないこと。
――外野手は監督に向いていない?
外野手って試合中に考えることは、ただひとつだよ。相手打者がバッターボックスに入った際、どこに守ればいいかな、とそれだけ。それにしたって、変な守備位置にいれば、ベンチから「もっとこっちだ、あっちだ」と指示が出る。つまり、野球を深く掘り下げて考える必要のないポジションだ。関根潤三さん(元大洋、ヤクルト監督)っているでしょ。近鉄にピッチャーで入って外野手として活躍したんだけど、あの人なんかヒドかったね。試合中に外野の守備位置で、こうバットを構える格好をして、イメージバッティングをしていた。敵として見ていて、なにやってんだ、と思ったけど、外野手の象徴だわな。打つことしか考えていない。
――今季のセ・リーグの監督は、6人中5人が外野手出身です。
それだよ。だから、野球の奥深さには期待できません。
――その点、キャッチャーは常に考えざるを得ない。
オレはキャッチャーで3年目に一軍に上がったんだけど、その翌年にサインを出すのが怖くなった。サインを出そうにも指が動かないんだ。野球はドラマというけど、そのドラマの脚本を書いているのはサインを出しているオレじゃないか、キャッチャーは監督以上のことをやっているんじゃないか、と気付いて、いよいよ怖くなった。自信をなくして、キャッチャーをやめようと思った。外野手にはそういうことがないだろう。