プロ野球経験者初の早大監督に 小宮山悟氏「指揮官の信念」
「学生たちは反旗を翻すと思いますよ。今までと違うわけですから」
小宮山悟氏(53)は今年1月から、母校である早大野球部の監督に就任。100年以上の歴史を持つ同部でプロ経験者として初めて大役を務める。現役時代はメジャーでプレーするなど多彩な経験をしてきた新指揮官の信念とは――。
■勝つことより大事なこと
――監督として何を大事にしたいですか?
「まずはもろもろを正す、というところから始めたい。100年を超える歴史がある早稲田大学の野球部とはこうだ、というものを常に意識し、重みを感じてほしい。かつて僕が教わったことをそっくりそのまま伝える使命がある。先輩が築いてきたものが音を立てて崩れないように。昔ながらの考えと言われればそれまでだが、嫌だと言う人間はいてもらうと困るから、出ていってもらって結構というスタンスで臨むつもり。みんな厳しい気持ちを持って入部しているでしょうから、ボタンの掛け違いのようなことはないと思っています」
――「鬼」と称された石井連蔵元監督を恩師と仰ぐ。「常にスキを見せるな」と教わるなど野球の心構えを学んだ。
「僕の学生時代はそれこそ死ぬほど投げて走ってという練習。今の時代には絶対にマッチしない。ただ教えは守ります。石井さんの上には(学生野球の父といわれる)飛田穂洲先生がいる。『一球入魂』という言葉が示すように、本来の野球部の本流はここにあると思う。OBの方々がよく口にされるのは、4年間でいったい何を学んでいるんだ、と。僕が示すことで学生もそれなりに感化されることもあるでしょう」
――近年はリーグ戦で低迷。勝つことも期待される。
「もちろん、勝てと厳命されます。勝ちたいですよ。でも、勝つことよりも人として大事なことはある。勝ちゃいいんだということには絶対したくない。昔ながらの早稲田かくあるべきというのを示せれば、負けても多少は納得をしてもらえると。アマチュアなので、勝つことの尊さを学びながら、専門的な野球の知識以外のことを身につけ、いっぱしの社会人として扱ってもらえるようにしたい」
■自己弁護する監督ばかりだった
――プロ時代は「頭脳派」といわれ、革新的なイメージがある。
「振り幅が広いところでの経験は強みだとは思う。ピリピリした空気があった石井さん、ロッテ時代はバレンタイン監督の笑顔で、というのもあった。だから何が良くて何が悪いか正解は存在しないと思ってます」
――バレンタイン監督はどんな存在ですか?
「プロ野球最高の指導者と思っている。選手にできないことは絶対に要求しない。できると思って起用しているのだから、ゲーム上の反省点はすべて監督の責任というスタンス。唯一、集中力を欠くプレーに対し、言い訳するような言動があった時は断じて許さずという監督だった。試合に出るべき選手が二日酔いで球場に来ることが散見した時期があって、説教したこともありましたけど。こう言ってはなんですが、自己弁護するような監督ばかりだったので、なるほどな、と。横浜時代の監督だった権藤博さんは、『恥かくのは選手』と普通に言っていた。監督がどうこう言ってもやるのは選手。バレンタインとは対極だけど、これもわかりやすかった。当時は『自己責任』なんて言葉は世に出回っていなかったが、責任の所在は選手というスタンスも大したものだなと思いましたね」