力走ならぬ力歩 競歩の実況中継はどうにも間が抜けている
猛暑のドーハ世界陸上、昼間を避けて夜スタートした50キロ競歩、鈴木雄介が金メダルを取った中継を見ながら、昔、知り合いのスポーツアナがしみじみと言ったのを思い出した。
「陸上の実況ってのはサ、脳みそに染みついてる単語は『走り』なわけ。あと1キロ、歯を食いしばって走ります! とかね。直線に入ってあと100メートルの勝負、グングン加速、豪快な走りです! とかね。ゴールを駆け抜けたぁぁ! とかね。競歩はね、これ全部『歩き』にしなくちゃならない。
あと1キロ、歯を食いしばって走り、と出てくるところを、ぐぐぐっとこらえて、歯を食いしばって、は(じゃねえ)、歩きます!
あと100メートル、後ろが追ってきた、大丈夫か、エネルギーは残っている! 一気にペースを上げた、ラストスパート、豪快な、は(じゃねえ)、歩きです! ついにゴールを、か(じゃねえ)、歩き抜けた!
言っちゃって、『歩き抜けた』って、なんか間が抜けてるなあと思ったけど、もう遅いやね。どうも力が入らない感じがあるでしょ、競歩って」