本物のタニマチは半人前の若いやつらに夜の遊びは教えない
岡田の耳は地獄耳だ。二軍選手のスター気取りは、すぐわかる。情報に強い。
「若いやつらは自分の魅力で呼ばれていると錯覚する。タイガースの看板がなけりゃあ、平凡な選手よ。タニマチが悪い?選手が悪い? そんなもん、本物のタニマチなら、若いやつらに夜の遊びは教えない。タイガースは人気があるから、チヤホヤされて、みな、歩く道を間違える。ニセ者のタニマチが選手を潰すんよ。だから激励会に出たからといって、選手も有頂天になったらあかん。それがわかってない。球団の教育? そら必要と思うけれど、最後は選手の自覚よ」
先の若き外野手は激励会の翌年の秋、戦力外通告を受け、プロ野球の舞台から去った。
巨人軍の都合、江川卓のわがまま、そこにコミッショナーまで加わり、3者の陰謀(1対1の交換トレード)で江川卓のいけにえの形で阪神の選手になった小林繁は、絵に描かれたように悪質なタニマチに人生を翻弄された。
阪神ファン、いや、世の野球ファン、いや、世の常識的な人は小林繁を「悲劇のヒーロー」と哀れんだ。
移籍1年目に、己の人生を急変させた巨人軍から8勝(0敗)。江川以外のだれもが留飲を下げたが、この悲劇のヒーローが、哀れ、坂道を転び、哀れ、破綻の人生を送り、ついには……死を迎える。 =つづく、敬称略