ボビーもベンチもボクも笑った 生涯ただ1球のスプリット
しかし、今度は翌05年の春季キャンプで、「マサ、チェンジアップが無理ならスプリットはどうだ?」と勧められたのです。左右の変化だけで緩急をつけるボールがなかったのは事実ですし、さすがに監督の指示を何度も拒否するわけにもいきません。渋々ながらスプリットも練習しました。
迎えたその年のオープン戦です。神宮球場のヤクルト戦。僕は九回に登板し、打席には新戦力の助っ人リグス。
3点差とリードしていたこともあり、果たしてスプリットが実戦で使えるかどうか、試してみたんです。
ところが、僕の予想をはるかに裏切って、ボールはまったく落ちない。右打者のリグスはバット一閃。ライトスタンドに突き刺さる見事なホームランでした。
あまりにお粗末なボールだったので、自分自身で笑ってしまったほど。守備に就いている野手もベンチのナインも笑っている。ボビーも苦笑いで、ベンチからスプリットの握りを僕に向け、「これか!?」と言わんばかり。僕も笑いながら、同じ指の形を見せて「はい、これです」とうなずく。ボビーも「わかった。もうスプリットはいい」とメッセージを込め、手でバツ印。そんなコントのような風景が繰り広げられました。結局、スプリットを実戦で投げたのは後にも先にもこの1球だけです。