マー君もうブルペン入り…ハイペース調整に潜む重圧と不安
絶大なプレッシャーとの闘いになりそうだ。
6日にキャンプへ合流した楽天の田中将大(32)が7日、早速ブルペン入りした。
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石井GM兼監督ら首脳陣や多くの報道陣が見守る中、捕手の太田相手に変化球を交えて40球。最後の数球は打者を立たせて締めくくった田中は、「やっぱり自然と力が入った」と話した。
石井監督の配慮もあり、当初はキャンプ中盤に合流するとみられていたが、田中は「第2クールから合流できるように調整していた」と説明。2月中には少なくとも1試合、多ければ2試合の実戦登板プランもあるらしい。メジャー時代は3月に入ってから5~6試合の実戦登板を行ってきたというが、首脳陣の想定を超えるペースで調整を進めていることだけは間違いない。
■フルシーズン回転で求められる結果
田中がキャンプへ早期合流したのは、「結果」に対する重圧と無関係ではないだろう。
日本球界史上最高額となる年俸9億円プラス出来高の2年契約を結び、入団会見で「決して腰掛けなどではなく、本気で日本一をとりにいきたい」と公言した。年齢も若く、バリバリのメジャーリーガーとして復帰するだけに、東北のファンはもちろん、多くのプロ野球ファンが注目し、期待を寄せている。
球団としても、コロナ禍で経営が苦しい中、大型契約を結んだ。2013年に無傷の24連勝を達成した田中がフル回転することで、是が非でもその年以来となるリーグ優勝を達成したいのだ。
さらに田中自身、今オフにもメジャー復帰したい意向もある。何より、結果を残さなければいけないのである。
日米で大きな違いがある公式球やマウンドについては、7年間楽天でプレーしていたこともあり、専門家諸氏からも不安視する声はさほど聞かれない。しかし、あくまで「腰掛けではない」と宣言した以上、今季はフル回転することが求められる。調子の良し悪しに関係なく、簡単に休むわけにもいかないはずだ。
田中はメジャー時代に右肘靱帯を部分断裂している。元メジャーリーガーの岡島秀樹氏が「唯一、心配な点があるとすればケガ。やらなければという思いがプレッシャーとなって、無理をすることになりかねません」と指摘しているように、ケガへの不安とも闘う必要がある。負担はかなり大きくなる。
経験、技術の還元
田中に求められるのは成績だけではない。田中は合流初日、チームメートに「7年間米国で野球をしてきて、いろいろと経験したこともある。何かあれば答えていきたいので、気軽に来てください」と挨拶した。練習の合間に則本昂ら後輩投手のブルペンをチェック。宿舎ではナインと食事をともにした。この日は20歳の引地にスプリットの握りを伝授した。メジャー時代に培った技術や経験をナインに還元し、チームの意識改革を促す役割を担う。
球団としても、13年以来のリーグ優勝を果たすには、戦力の底上げが不可欠だと考えている。楽天OBが言う。
「楽天は個々の選手の力はあるものの、ソフトバンクのように投手、野手が一丸となって戦う態勢になり切れていないのが実情。嶋(ヤクルト)や美馬(ロッテ)ら13年優勝メンバーのほとんどはいなくなった。岸や浅村、涌井といった移籍組が中心ですが、彼らは個人主義の傾向が強く、リーダー的な存在はいない。田中には先頭に立ち、プレーや行動、立ち居振る舞いを通じてチームを活性化してもらいたいのです」
そこで想起されるのは、15年にヤンキースから広島へ“男気”復帰した黒田博樹(現評論家)だ。40歳での復帰だったものの、前年はヤンキースで11勝を挙げるなど、現役バリバリだった右腕は復帰年から2年連続で2ケタ勝利をマーク。16年には25年ぶりのリーグ優勝に貢献し、その年限りでユニホームを脱いだ。
広島OBは、「田中は32歳と若いからまだしも、黒田さんは肩や首の痛みと闘い続けていた。マッサージをしてもなかなか回復せず、痛み止めの注射を打ちながら、ブルペン投球を回避して、ぶっつけで先発したこともあった」と明かす。ケガと闘いながら成績を残しただけでなく、同僚選手や首脳陣とも積極的にコミュニケーションを取り、チームの底上げに尽力した。
コーチやベテラン捕手の石原(20年限りで引退)らと連携を取り、広島投手陣に内角攻めの意識が浸透。エース格だった野村祐輔は黒田に助言を請い、プレートを踏む位置を一塁側に変えた。これによって得意球のシュートが生き、16年には16勝を挙げ、最多勝を獲得する活躍を見せた。
「制球に苦しむ若手投手には、『ストライクゾーンは2分割することから始めたらどうか。9分割では俺でもしんどい』と目線を下げてアドバイスしていた」(広島OB)
黒田の2年間の年俸総額は10億円。田中は黒田より若く、倍の年俸をもらうだけに、黒田以上の結果、貢献が求められる。グラウンド内外で背負う大きな重圧に耐えることができるか。