俳優・渡辺謙さんが語る阪神愛 16年ぶり優勝は「ベンチワークに尽きる」
今年3月の日本アカデミー賞授賞式でのことだ。「Fukushima50」で最優秀助演男優賞を受賞。壇上でこんな裏話を披露して、会場の笑いを誘った。
「(若松節朗)監督がいつの日からか、巨人のメガホンを持って、“よーい、スタート”をかけ始めた。ちょっと僕、宗派が違うもので、『それはないだろ!』と。僕は真面目な芝居がしたいのに、そのメガホンはなんだということで、ちょっと目を盗んだ隙にゴミ箱に捨てました」
阪神の怪物新人・佐藤輝明についても「期待が膨らみます」と言及。タイガースへの愛情を感じさせる一コマだった。
そんな名優が阪神に魅了されることになったのは昭和40年代。V9巨人の全盛期だった。圧倒的な強さを誇った王者をきりきり舞いさせる若虎に目を奪われた。
「後楽園での試合で江夏―田淵のバッテリーを見たんです。V9の頃で、なんでこんな強いチーム(巨人)が勝てないのか不思議でした」
「絶対に落とせない試合で柔軟に勝ち切る采配ができるかどうか」
以来、自他ともに認める“虎キチ”となった。今でも時間があれば直接、球場に足を運んでスタンドから声援を送る。思い出深いシーンを尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「掛布雅之さんの引退試合(1988年10月10日=甲子園)を見に行ったこと、ダイエー(現ソフトバンク)との日本シリーズ、見た試合すべてサヨナラで興奮し、そして涙をのんだ年です」
星野阪神と王ダイエーが相まみえた2003年の日本シリーズ。敵地で2連敗スタートとなった阪神は本拠地・甲子園で3連勝して逆王手をかけたものの、力及ばなかった。7戦までもつれたこの年の日本シリーズは3試合がサヨナラ決着だった。
その03年は、この年からFAで阪神に加入した金本知憲がリーグ制覇の原動力になったが、今年はドラフト1位新人の佐藤輝が打線を勢いづかせる。その佐藤輝の魅力をこう言った。
「臆せず(バットを)振ること。今までの阪神に一番足りなかったことです」
そんな新戦力の奮闘もあって今年のチームを、「打線がようやく線になってきた。勝ち方が浸透してきた」と頼もしげだ。
05年以来16年ぶりの優勝に向け、ポイントは首脳陣の手綱さばきだとみている。
「ベンチワークに尽きるかと。この試合は絶対に落とせないというときに柔軟に勝ち切る采配ができるかどうか」
阪神が久々の美酒に酔うとき、球場のスタンドでファンと一緒に喜びを分かち合う姿が見られるかもしれない。
▽渡辺謙(わたなべ・けん) 1959年、新潟県生まれ。87年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」で人気を不動のものにすると、その後はハリウッドにも進出。2003年公開の「ラストサムライ」で同年度の米アカデミー賞助演男優賞にノミネート。06年には「硫黄島からの手紙」でハリウッド映画に初主演を果たすなど、世界を股にかけて活躍する。