新庄から“打ちたい”のサイン!ベンチの野村監督は「あの目立ちたがり屋が…」

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柏原純一(元阪神)#1

 現役時代の新庄劇場を象徴する試合のひとつに、「敬遠球サヨナラ安打」がある。1999年6月12日、甲子園での巨人戦。十二回裏、同点1死一、三塁の場面だった。打撃コーチだった柏原氏とは事前に敬遠球を狙う打ち合わせがされていたというが……。

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  ◇  ◇  ◇

■伝説の敬遠球サヨナラ打の裏側

 あの試合の3日前、新庄が広島戦で敬遠されたんです。すると翌日、大きく外れたボール球を打つ練習をしていました。

「何やってるんだ?」

「敬遠されたから、次は絶対に打ってやろうと思って」

 僕は敬遠球を本塁打にした経験がある。でも、実際に敬遠球の打ち方を教えたことはない。ただ、その練習を見て、こう言った。

「敬遠球を打って失敗するということはまずない。なぜなら、相手の守備位置は三遊間がガラ空きになる。(ストライクゾーンから)大きく外すから、カーブやフォークのような球種はまず投げてこない。ハーフスピードの真っすぐしか来ない。そうなると、バットがボールに届けば、ヒットになる」

 そうはいっても、敬遠は相手チームがタダで走者をひとつプレゼントしてくれるもの。ベンチの考えもある。「君の一存では決められない。野村監督がOKを出すならいいよ」とも言い添えました。

 相手が敬遠策に出てきたとき、新庄が打ちたかったらベンチに合図を出すよう、サインも決めた。迎えた巨人戦です。バッターボックスを外し、「打ちたい」のサインを出す新庄。野村監督に「打ちたいと言っています」と伝えた。すると、監督はゆっくりと口を開きました。

「あの目立ちたがり屋が……」

 しかしその後は沈黙。もちろん試合は動いている。投手の投球間は長くても20秒。早く新庄に「返事」をしなければならない。“イエスでもノーでもいいから早く言ってくれ!”。そう思って固唾をのんでいると、ボソッとひと言。

「打っていい」

 実際は5秒くらいの沈黙だったが、体感では30分くらいに感じた。サヨナラを打ったことは痛快だったが、野村監督のその沈黙の5秒の方が鮮明に覚えている。

 新庄はよく野村監督の自宅に遊びに行っていたというが、当時2人にそこまで親交があるとはみじんも感じさせなかった。ただ、新庄がメッツに移籍した後、気になるメジャーリーガーの名前を挙げ、「この選手いいですよ」と野村監督に獲得を勧めていたとも聞きました。

観察眼のすごさ

 今、SNSで野村監督の言葉などを引用し、野球論を展開しているのを見て驚いています。そこまで観察し、考えていたとは……。

 ただ、その一端を感じたのは、日本ハムに戻った2004年の球宴でホームスチールしたときのこと。(登板していた全セの投手)福原(忍=阪神)はショートスローが苦手で、軽く放るとき右側の高めに抜ける。それが分かっていてホームスチールをしたという。あとからその話をすると、「抜けると分かっていた」と言うから、その観察眼には驚かされました。  =つづく

▽柏原純一(かしわばら・じゅんいち) 1952年6月15日、熊本県出身。熊本県立八代東高からドラフト8位で南海ホークスに入団。78年に交換トレードで日本ハムに移籍。81年、西武戦で敬遠球を打って本塁打に。86年に金銭トレードで阪神に移籍。88年に現役引退。89年から阪神でコーチを務め、新庄らを育てた。その後も中日、日本ハムなどで打撃コーチを歴任。現在はユーチューブで動画を配信中。

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