トイレで酔いつぶれ、野手のミスに平然…野茂英雄のそんな姿が周囲との距離を縮めた
■ミスをした野手との酒席でもグチはこぼさず
1年目の開幕から先発ローテーション入り。初登板は4月10日の西武戦だが、なかなか勝ち星が先行しなかった。四球で無駄な走者を出すなど、自分で勝てない展開にした試合もあった。が、5月8日、北九州で行われたダイエー戦は違った。延長十回、180球を投げながら遊撃手・米崎薫臣の判断ミスでサヨナラ負け、3敗目(1勝)を喫した。
その試合後のこと。私は野茂を誘い、飲みに出掛けた。選手数人と、確かミスをした米崎も呼んだと記憶している。せっかく良い投球をしながら勝てなかった。プロ1年目のルーキーだけに、このままズルズルといってしまうことを心配したのだ。
野茂はしかし、米崎のミスをまったく気にしていなかった。「勝ちたかった」などと言えば、米崎は傷つくし、打てなかった野手たちも責任を感じる。だが、グチひとつこぼさず、よく飲み、よく食べ、そしてよく笑った。
「野手の人たちに申し訳ないです」
最近はこんなことを言う若手投手も珍しくない。野茂はそういったこともあまり口にしないタイプだったから、誤解を招くケースもあった。
だが、ミスした本人を非難するわけでなく、普段通り、淡々と飲み食いする姿に、ナインの野茂を見る目は変わっていった。野茂は少しずつ、チームに溶け込んでいった。(つづく)