巨人「補強重視」の弊害は特定の選手への依存が生じること 代替可能な組織づくりが大事
巨人・原辰徳監督
第3次政権が4年目に入った原辰徳監督(63)が率いる巨人は今季、36勝31敗(16日現在)で、首位ヤクルトに7ゲーム差をつけられての2位。復帰1年目の2019年から2年連続でリーグ優勝に導いたものの、昨季は61勝62敗20分けの3位。ここ2年間は、長年チームを牽引してきた菅野智之、坂本勇人という投打の中心選手が不調や故障に悩まされたことなどもあり、ヤクルトの後塵を拝している。
かねて、助っ人やFA選手の補強に頼る編成が、ときにチーム強化の足かせになっているともいわれるが、マネジメントのプロである株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏(42)は編成権を持つ全権監督の手腕をどう見るか。
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──巨人は注目度が高く、常に勝つことが求められるチーム。とはいえ、生え抜きの選手を育成することよりも、補強で良い選手をかき集めることのほうが目立ちます。
「巨人も勝つためにさまざまなことを考えながらやっていると思いますし、あくまで外から見た前提になりますが、私が関わっているBリーグの福島ファイヤーボンズ(前季8チーム中6位から、2021-22年シーズンは初のB2プレーオフ進出)でいうと、まず監督がチームの戦略、方向性を決め、それに応じて選手を獲得しています。監督がポジションごとに求めるものに選手が合わせ、それを評価する。この順番でいくと、チームに不足していることが明確になり、その不足を埋めていくことでチームとして成長していく構図ができる。しかし、補強に重点を置きすぎると、特定の選手への依存が生じます。『こういう選手が集まったから、こういう野球をやろう』と、選手に合わせたチームづくりになりがちです」
──順番が逆になるわけですね。
「エース級の選手の能力に依存すると、勝敗がその選手の調子で左右されるようなチームになります。会社組織でいうと、一人の優秀な営業マンの調子次第で売り上げが変動するような会社は安定的な成長は不可能。一人の優秀な社員の調子が悪くても、他の社員が埋めるような仕組みにしないと伸びてはいきません」
──若手の成長には時間がかかります。
「福島では、チームの戦略に選手を当てはめる編成をし、時間とともに選手に成長を促しています。どんなにいい選手でも『チームが求める機能』に対して足りない部分を埋めることが最優先。それができなければ獲得しないし、使いません。チームで足りない部分を埋める作業を積み上げ、仕組みとして、代替可能な組織をつくることが大事だと考えています」
優秀な人間には頼りはするけど、依存しない
──昨年日本一で今季もセ・リーグ首位を走るヤクルトは、補強に頼らない生え抜き選手の育成の成果が出ている。巨人は補強が失敗に終わった年は勝てないケースが多い。
「さらに言うと、フロントや監督が、選手がやりたい野球に合わせてしまうと、選手の管理が利かなくなります。監督が2人いるような形になり、評価する側とされる側が逆転する。選手側が独自にルールを決め、チームとしての統制が利かなくなる状況に陥りやすい。何しろ、その選手に辞められたら困るわけですから。中心選手であっても、監督、コーチの要求に応えられない選手には、何が必要かを示す。それができれば残すし、できなければいったん外す。これを仕組みとして機能的に回すことで代替可能な組織になる。優秀な人間には頼りはするけど、依存しないことが大事。おそらく、選手任せになると日々の食事や生活についても緩くなる可能性が高い。たとえば、ソフトバンクホークスの選手って、あまりお腹が出ていないですよね」
──たしかに、鍛え上げられた選手が多いように見受けられます。
「組織として日々、しっかりと選手を管理する中で、1点、2点の差が生まれる。バスケットでも、腕の筋肉一つをとっても、チームごとに鍛え方の違いがあったりします。福島では日々のトレーニングや食事の体制を大幅に変えましたね」
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