森保Jの「切り札」古橋亨梧はこうして誕生した “関西のバルセロナ”興国高監督に聞いた

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同級生・南野拓実とは「ウサギと亀」

 ──興国高校に通いながらセレッソ大阪ユースに所属していた南野拓実(モナコ)も同学年にいた。

「体育を教えました。身体能力の高さでいうと、他にも野球部とかに凄い子はいましたけど、南野はスポーツ万能でバランスも良くて何でもできる生徒でした。高校時代の亨梧はいい意味でまだ子供でしたが、南野は正反対でもう大人でした」

 ──というと?

「高2でプロ契約して、高3の時はプロでバリバリのフォワードとして試合に出ていました。高校を卒業する時に南野が車を買ったと言うので『何買ったん?』と聞いたら『中古のプリウスを買いました』って。『何で?新車じゃないん? 外車じゃないん? セレッソの選手はみんな派手な車に乗ってるやん』って言ったら、『先生、僕、できるだけ早く海外に行くつもりだから、セレッソの寮からグラウンドに行く足があればいいんです。日本でいい車買っても仕方ないんで』と言うんです。18歳の時にすでにそんな感じでしたから。大人でしょ? すでに有名な選手だったし、お金をいっぱいもらったら、普通はちょっと浮かれていい車を買いますよね」

 ──確かに大人です。

「当時はフォワードでしたが、『僕はいずれ中盤をやらないと世界では通用しない』とはっきり言っていました。『内野先生はどう思いますか?』って聞かれたから『俺もその通りやと思う。ドリブルとかパスとか、1.5列目の選手がやるようなプレーを高めていかんと、ストライカーとしては恐らくこの先、行き詰まると思うで』と答えました。当時50メートルは6秒2くらい。30メートル走もセレッソの測定で1位か2位だったらしいです。でも、世界のフォワードは体がもっと大きいし(現在の南野は174センチ、68キロ)、スピードもある。その後、選手同士で話していたのが当時のセレッソのスタッフの耳に入って『余計なことを言うな』と怒られましたけど……。でも、今まさにそうなってますよね」

 ──部活とユースの違いはあれど、興国高校出身の2人が同時にW杯に出るかもしれない。

「ウサギと亀のレースみたいな感じですよね。突っ走ってきたウサギの南野はサボったわけではないけど、亀の亨梧が来るのを待っていた。亨梧はコツコツ頑張って、じわじわと追い上げた。実際は亀の方が足は速いですけど(笑)。そうなれば本当に快挙です」

■空気読まないプロ向きの性格

 ──古橋との一番の思い出は?

「3年生最後の高校サッカー選手権の大阪予選の準決勝だったか、1メートルのフリーのシュートを外したんです。はっきり言って小学生でも決められるような、高校3年間の公式戦で最もイージーなシュートでした。ゴルフでいえば10センチのパットを外すようなもの。その10分後ぐらいに違う選手のオウンゴールで負けてしまいました。スター軍団でめちゃくちゃ強い代だったので、亨梧が得点していれば全国に行っただろうし、選手権でもいいところまでいったんじゃないかな。それに、負けた後の態度が印象的だったんです」

 ──泣きじゃくったとか?

「オウンゴールをしてしまった選手は泣いていました。でも亨梧は悪びれることなく『あれは決められましたね』とアッケラカンとしていたんです」

 ──ミスなんて全く気にしていなかったと。

「サッカー部のお別れ会で300人ぐらいを前に『あの時シュートを外したんで、プロになって借りを返します』と挨拶したんです。みんながプロへ行くわけじゃないから、他の部員たちに『意味分からん』と突っ込まれていました。オレらの青春返せって感じですよね。でも、亨梧らしいなと笑い話になりましたけど。愛されるキャラだったし、彼の人徳ですね。いい意味で空気が読めないというか、プロでは必要なことかもしれません」

 ──実際、日本代表になって借りを返しているともいえる。

「『だから言ったじゃないですか』と言われそうですね(笑)」

 ──W杯で得点できそう?

「相手が強い方が亨梧は点が取れます。敵が前がかりになってDFの背後にスペースができるからです。毎年スペインに行って感じることは、小柄で速い選手を揃えると、日本で試合をする時よりスペイン相手の方が点が入ります。大柄なフォワードの方がマークしやすいんでしょうね。ちょっと触れたらPKになっちゃうようなタイプはつかまえにくい。これは森保監督に申し上げたい。あとはパートナーにMF鎌田(大地=フランクフルト)君がいるといい。彼のパスとか相性がいいように見えるので。W杯で点を取って死の組のグループリーグを突破して、ベスト16の壁を破ってくれたら、あの時のミスは許します(笑)」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ

古橋亨梧(ふるはし・きょうご) 1995年1月20日、奈良県生駒市出身。興国高、中大では全日本大学選抜。17年J2の岐阜入り。2年目に5試合連続ゴール。J1の神戸では2年連続でJリーグ優秀選手賞。2021年にスコットランドのセルティックへ完全移籍。同年はリーグ戦20試合で12ゴールを挙げて得点ランク3位。年間ベストイレブンに選出された。

内野智章(うちの・ともあき) 1979年5月31日、大阪・堺市出身。初芝橋本高(和歌山)では1年時に全国高校選手権(95年度大会)4強。高知大を経て愛媛FCに入団したが、原因不明の体調不良により1年で退団し引退。2005年に興国高で非常勤講師になり、翌年から体育教師、サッカー部監督を務める。

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