「さすらいのジャパンオープン」はテニス協会の体質を変えない限りこれからも続く
「キミ、違うよ。一緒に渡米したのは副知事じゃなく助役だ」
小坂会長も川廷氏もS氏も、みな上流階級出身の純粋なテニス愛好家だった。バブル期にスポーツ愛が企業欲へ変質し肥大化した……それが、いま混濁する東京五輪問題の下地である。
■錦織、大坂を授かりながら…
楽天の冠は2009年からで、錦織人気で盛り上がった。出場すれば即完売。錦織も2度の優勝で期待に応えたが、トップ選手はほぼ全員、同じATP500の北京に回っていた。09年の上海マスターズカップで、ナダルにそれを尋ねたことがある。
「本当に来て欲しいのか、東京に聞いてみてよ」
会見の問答はいまもネット検索できる。公式戦だろうと引く手あまたの選手に出場交渉は欠かせず、問題は金だけではない。主催する協会にはツアープロの世界に人脈がなく、交渉の手段も意思もない。メーカーとの付随契約の出場では、選手のやる気は薄く、途中棄権が多かったのはそのためもあるだろう。
錦織も出た15年の団体戦のエキシビション大会ⅠPTLでこんなことがあった。裏口の暗がりで大男がたばこを手に談笑していた。彼と話していた、デ杯でも活躍した鈴木貴男が紹介してくれたのは日本でも人気のサフィンだった。鈴木だけでなく、古くは神和住純や平木理化、ツアー内に人脈を持つ選手やコーチは少なくない。彼らの経験が生きないのは金でもコロナでもなく、アマチュアの裃をつけ、五輪の印籠を手にプロを仕切る無理な組織構造だ。
この先、錦織だけでなく、西岡良仁やダニエル太郎らが働けない、働きたくない体質を変えない限り、協会最大の財源「ジャパンオープン」のさすらいは間違いなく続く。錦織、大坂なおみという至宝を授かりながら何もできなかった。この年度末、理事総入れ替えくらいの覚悟は必要だろう。