料理小説編
「純喫茶トルンカしあわせの香り」八木沢里志著
千代子が、谷中の路地裏にある純喫茶トルンカに通い始めて20年が過ぎた。ある日、マスターの娘・雫から初恋の思い出をたずねられ、脳裏に幼女のころの思い出がよみがえる。その人、武彦は父が営む酒屋の顧客の息子だった。父の配達についていった千代子が、武彦の部屋に遊びに行くと、いつもショパンのレコードがかかっていた。以来、トルンカでショパンの「エオリアン・ハープ」を耳にするたび、千代子は武彦との思い出に胸が締め付けられる。そんなある日、トルンカで映画の撮影が行われることになり、千代子はエキストラを務める。(「午後のショパン」)
古い喫茶店に集う人々のドラマを描く心にしみる短編集。(徳間書店 630円+税)